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トピックス/コラム詳細

2023年01月05日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信22.12.5-12.26(同一労働同一賃金・厚労省調査,賃料保証会社の「追い出し条項」の差止めを認める最高裁判決,経営者保証改革プログラム)

235. 【同一労働同一賃金・厚労省調査】22.12.5
さて,2022.11.26の朝日新聞に,「厚生労働省は25日,パートタイムや有期雇用の労働者の待遇について調査した結果を発表した。正社員との間で「不合理な待遇差の禁止」が法律に定められたことを受け,待遇差の「見直しを行った」とした企業は28・5%だった。一方で「見直しは特にしていない」は36・0%で十分な対応がされていない実態も浮かんだ。」との記事がありました。

 

(2)上記記事の厚労省の実態調査は下記のURLから詳細が見ることができます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/170-1/2021/index.html

 

(3)厚労省の報道発表資料に掲載されていた調査結果概要を抜粋しておきます。自社の現在の取り組み状況を振り返ってみる機会になるかもしれません。

 

【調査の概要】
全国の事業所から約 29,000 事業所,このうち5人以上の常用労働者を雇用する事業所で働くパートタイム・有期雇用労働者から約 23,000人を無作為抽出し,令和3年 10 月1日現在の状況について実施したものです。有効回答率は事業所調査で 51.9%,個人調査で 57.1%。事業所調査では,約 29,000 事業所のうち本社等である約 18,000 事業所に対して企業全体の状況を調査し,このうち有効回答である 8,964 事業所の回答を集計したものを公表

 

【調査結果のポイント】

〔事業所調査〕
1  企業におけるパートタイム・有期雇用労働者の雇用状況
パートタイム・有期雇用労働者を雇用している企業の割合は 75.4%であり,そのうち「無期雇用パートタイムを雇用している」企業は 51.4%,「有期雇用パートタイムを雇用している」企業は 27.1%,「有期雇用フルタイムを雇用している」企業は 23.2%となっている

2  パートタイム・有期雇用労働法の施行による待遇の見直し
正社員とパートタイム・有期雇用労働者の両方を雇用している企業のうち,同法が施行された令和2年4月(中小企業は令和3年4月)以降のパートタイム・有期雇用労働者と正社員の間の「不合理な待遇差の禁止」の規定に対応した企業の割合は 28.5%,「待遇差はない」28.2%と合わせて6割近くとなっている。また,「パートタイム・有期雇用労働者の待遇の見直しを行った」企業については,見直した待遇の内容は「基本給」が 45.1%と最も高く,次いで「有給の休暇制度」が 35.3%となっている。

 

〔個人調査〕
1 現在の就業形態を選んだ理由
就業形態,男女別にみると,「有期雇用フルタイム」の男では「正社員を定年退職した後に再雇用されたから」が 44.4%と最も高い割合となっており,それ以外では「自分の都合の良い時間(日)に働きたいから」が最も高く,「無期雇用パートタイム」の男では 66.6%,女では 58.4%,「有期雇用パートタイム」の男では 44.2%,女では 56.9%,「有期雇用フルタイム」の女では28.1%となっている。

2 自身と業務の内容及び責任の程度が同じ正社員と比較した賃金水準の意識
「業務の内容及び責任の程度が同じ正社員がいる」パートタイム・有期雇用労働者の賃金水準についての意識は,パートタイム・有期雇用労働者計でみると「賃金水準は低く,納得していない」が 45.0%と最も高くなっている。

3 自身と正社員との待遇の相違についての説明要求の有無及び結果
令和2年4月以降(中小企業の場合は,令和3年4月以降)の自身と正社員との待遇の相違の内容や理由について,「説明を求めたことがある」パートタイム・有期雇用労働者は 15.1%であり,そのうち「説明があり納得した」割合は 79.7%である。

4 今後の働き方の希望
今後の働き方の希望については,いずれの就業形態も「現在の会社で」「現在の雇用形態で仕事を続けたい」が最も割合が高くなっており,「無期雇用パートタイム」では 77.8%,「有期雇用パートタイム」では 69.7%,「有期雇用フルタイム」では 57.7%となっている。

 

 

 

 

236. 【賃料保証会社の「追い出し条項」の差止めを認める最高裁判決】22.12.19
さて,2022.12.12,最高裁第一小法廷は,賃貸住宅の契約を巡り,借り主が家賃を一定期間滞納するなどした場合は物件を明け渡したとみなし家財道具を処分できることになる家賃保証会社の契約条項(いわゆる「追い出し条項」)等の有効性が争われた訴訟で,この規定は消費者契約法に違反するとして差止請求を認める初めての判断を示しました。下記が最高裁のHPのURLです。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91599

 

(2)今回の事件は,「消費者支援機構関西」というNPO法人が原告となって,家賃保証会社「フォーシーズ」を被告にして訴えた裁判です。少しややこしいので,長くなって恐縮ですが,順を追って説明します。

 

(3)原告のNPO法人は,消費者契約法の定める「適格消費者団体」でした。この「適格消費者団体」というのは,不特定かつ多数の消費者の利益のために消費者契約法による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた者,です。(同法2条4項)。

 

(4)「適格消費者団体」の認定を受けた者は,事業者(今回の訴訟では,「フォーシーズ」という家賃保証会社)が,不特定かつ多数の消費者との間で,消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項で信義誠実の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するような契約条項を含む消費者契約を締結するおそれがあるような場合には,その事業者に対して,当該行為の停止・予防や,当該行為に供した物の廃棄・除去などの請求を行うことができる,とされています(同法12条)。

 

(5)今回の訴訟で「フォーシーズ」は,賃貸住宅の賃貸人,賃借人との間で,「住み替えかんたんシステム保証契約書」と題する契約書を用いて,賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約に関し,賃借人が「フォーシーズ」に対して賃料債務等を連帯保証することを委託し,「フォーシーズ」が賃貸人に対して当該賃料債務等を連帯保証する契約を締結していました。つまり,「フォーシーズ」は,賃借人の委託を受けて,賃借人が賃貸人に対する賃料を滞納した場合に,連帯保証人として賃貸人に対して賃料を支払う,ということになっていました。

 

(6)この「フォーシーズ」と賃借人との間の契約部分は消費者契約に該当しますが,そこには,次のような契約条項(以下「本件契約条項」)が定められていました。原告のNPO法人は,本件契約条項は,信義誠実の原則に反して消費者(=賃借人)の利益を一方的に害するものだ,として,「フォーシーズ」に対して,本件契約条項を使うことの差止めや,本件契約条項が記載された契約書のひな形が印刷された契約書用紙を廃棄することなどを求めていました。

 

【本件契約条項】
① フォーシーズは,賃借人が支払を怠った賃料等及び光熱費などの変動費の合計額が賃料3ヵ月分以上に達したときは,無催告で賃貸借契約を解除することができる

② フォーシーズは,賃借人が賃料等の支払を2ヵ月以上怠り,フォーシーズが合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ,かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときは,賃借人が明示的に異議を述べない限り,これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる

 

(7)【本件契約条項①について】
最高裁第一小法廷は,今回の賃貸人と賃借人の間の賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的な契約であるところ,その解除は賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招き得るものであるから,契約関係の解除に先立って,賃借人の賃料債務等の履行について最終的な考慮の機会を与えるため,その催告を行う必要性は大きい,ところが本件契約条項①は,所定の賃料の支払の遅滞が生じた場合,もともとの賃貸借契約の当事者ではなく賃料保証会社に過ぎない「フォーシーズ」がその一存で何らの限定なく賃貸借契約を無催告で解除権を行使することができるものであるから,賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるということができ,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものというべきである,として,本件契約条項①を含む契約を締結することを差止め,契約書の廃棄を命じました。

 

(8)【本件契約条項②について】
 最高裁第一小法廷は,この条項に基づいて本件建物の明渡しがあったものとみなしたときは,賃貸借契約解除前で賃借人は本件建物に対する使用収益権が消滅していないのに,賃貸借契約の当事者でもなく賃料保証会社に過ぎない「フォーシーズ」の一存で,その使用収益が制限されることになること,賃借人は法律の定める手続によることなく本件建物の明渡を余儀なくされたのと同様の状態に置かれること,賃借人が異議を述べれば「フォーシーズ」は本件建物の明渡しがあったものとみなすことができないものとされているが,その要件は不明確で,また賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないことなどから,本件契約条項②は,消費者である賃借人と事業者である「フォーシーズ」の各利益の間に見逃すことのできない不均衡をもたらし,当事者間の衡平を害するもので信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものであるというべき,として,同様に差止めなどを認めました。

 

(9)現在,建物を賃借しようと思うと,家族などの連帯保証人を立てることを求められることが多いのが実情と思われます。ただ,家族関係などが希薄になり,必ずしも適切な連帯保証人を立てることができる人ばかりではありません。そのようなことから,本件のような家賃保証会社のニーズがあります。この点,一旦家賃滞納が生じると,家賃保証会社の保証債務の金額が,毎月,徐々に膨れあがって来る可能性があるため,家賃保証会社としてはこれを防ぎたい,ということになります。このため,本件契約条項を入れて,家賃保証会社の一存で,賃貸借契約を解除したり,建物の明渡があったものと見做して裁判手続などを吹っ飛ばして自力で明渡を実現してしまう,ということができるようにしていたようです。ただ,このようなことが認められると,賃借人(消費者)の利益が一方的に害され,路頭に迷う賃借人が多く出てしまうおそれがある,ということで,最高裁は差止を認めたものと思います。

この判断自体は極めて正当なものです。他方で,今回の判決で,本件契約条項が使えなくなると,そのコストに備えて家賃保証会社の保証料のアップなどが行ったり,賃借人候補者を厳しく選別したりし,結局,建物を借りようとしても借りることができない人が増えてしまうという心配もあります。そういった事態に備えて,国や自治体が,生活に最低限必要な住居の確保を,公の政策としてより推し進めていく必要がある,と感じます。

 

 

 

 

237. 【経営者保証改革プログラム】22.12.26
さて,2022.12. 24の日経新聞に,「経済産業省と金融庁,財務省は23日,経営者個人が会社の連帯保証人になる「経営者保証」の改革プログラムを正式に発表した。2023年から,創業5年以内を対象に経営者保証を不要にする信用保証制度など3つの制度を順次始める。」との記事がありました。

 

(2)上記の「経営者保証改革プログラム」公表についての金融庁のHPは下記のURLです。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/20221223-3.html

 

(3)経営者保証改革プログラムの1つの柱として,「民間金融機関による融資 ~保証徴求手続の厳格化,意識改革~」があげられています。監督指針の改正を行い,保証を徴求する際の手続きを厳格化することで,安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに,事業者・保証人の納得感を向上させる,というのが骨子です。

 

(4)保証徴求手続の厳格かの具体的施策としては,次の点が挙げられています。

① 金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には,保証契約の必要性等に関し,事業者・保証人に対して個別具体的に以下の説明をすることを求めるとともに,その結果等を記録することを求める。【23年4月~】
●どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
● どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか

② ①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。【23年9月期 実績報告分より】
(※) 「無保証融資件数」+「有保証融資で,適切な説明を行い,記録した件数」=100%を目指す。

③ 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し,事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」などの相談を受け付ける。【23年4月~】

④ 状況に応じて,金融機関に対して特別ヒアリングを実施。

 

(5)2020年の民法(債権法)改正により,事業性融資等について保証契約締結の要件が加重されましたが,今回はそれを更に一歩進めるものと言えそうです。金融機関が個別具体的に説明することが求められることになる「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」というのは,経営者保証ガイドラインの要件(①法人・個人の資産分離,②財務基盤の強化,③経営の透明性確保)が中心になると思われます。

 

(6)もちろん,金融機関側がこれまでの融資慣行を改めていくという必要はありますが,他方で融資を受ける企業側としても,上記(5)①法人・個人の資産分離,②財務基盤の強化,③経営の透明性確保について,より一層の自助努力が要求されることになります。その双方の取組みが相まって初めて,本当の意味での経営者保証の「改革」が実現されるものと思います。