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トピックス/コラム詳細

2022年11月01日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信22.10.2-10.31(不正競争防止法上の営業秘密,知財高裁第三者意見募集・ ニコ動,尼崎市USB紛失・個人情報保護委員会,ビジネスと人権②技能実習生,音楽教室 生徒演奏と著作権の最高裁判決,法人代表者の住所のネット閲覧の方針転換)

226. 【不正競争防止法上の営業秘密】22.10.2

さて,大手回転寿司チェーンを運営する会社の社長が,ライバル会社の営業秘密を不正に持ち出した,ということで,不正競争防止法違反の容疑で逮捕されたことが大きく報道されています。

 

(2)この点,「営業秘密」とは下記のとおり,不正競争防止法で定義がされています。

 

【不正競争防止法2条6項】

 

この法律において「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう。

 

(3)この条文を見ると,「営業秘密」に該当するためには,①秘密として管理されていること,②営業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること,③公然と知られていないものであること,の3つの要件が必要であることが分かります。

 

(4)例えば,営業活動に有用な技術情報や営業情報で公然と知られていない情報であったとしても,社内で「秘密として管理」されていなければ,「営業秘密」に該当せず,退職した社員がこれを持ち出しても,少なくとも不正競争防止法に反するとは言えない,ことになってしまいます。そこで,例えば,表紙に「持出し禁止」「厳秘」などと記載して,鍵の掛かったロッカーに保管して,鍵の管理者を特定の人に指定するであるとか,サーバーに保存されたデータであれば,パスワードをかけて,担当者以外にはアクセスできないように制限をかけるなど,「秘密として管理」するようにしておく必要があります。特に中小企業などでは,このあたり対応をしていないケースがあるようですので,一度,確認してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

227. 【知財高裁 第三者意見募集・ニコ動】22.10.5

さて,2022.10.1の日経新聞に,「「ニコニコ動画」などを手掛けるドワンゴが動画再生中のコメント表示を巡る配信システムの特許を侵害されたとして,米FC2などに配信差し止めなどを求めた訴訟の控訴審で,知財高裁(大鷹一郎裁判長)は30日,外部の専門家らの意見を集める「第三者意見募集制度」を採用することを決定した。制度は2022年4月施行の改正特許法で導入され,採用は初めてとみられる。」との記事がありました。

 

(2)記事で紹介されている特許法の条文は下記です。

 

(第三者の意見)

第百五条の二の十一 民事訴訟法第六条第一項各号に定める裁判所は,特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟の第一審において,当事者の申立てにより,必要があると認めるときは,他の当事者の意見を聴いて,広く一般に対し,当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について,相当の期間を定めて,意見を記載した書面の提出を求めることができる。

2 民事訴訟法第六条第一項各号に定める裁判所が第一審としてした特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟についての終局判決に対する控訴が提起された東京高等裁判所は,当該控訴に係る訴訟において,当事者の申立てにより,必要があると認めるときは,他の当事者の意見を聴いて,広く一般に対し,当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について,相当の期間を定めて,意見を記載した書面の提出を求めることができる。

 

(3)知財高裁のホームページには,下記のとおり,本件についての意見募集のページがありました。

https://www.ip.courts.go.jp/tetuduki/daisanshaiken/index.html

 

(4)これまでの訴訟でも,専門的知見が必要な場合には,裁判所が採用した鑑定人が鑑定意見を出す,ということがされていました。ただ,なかなか適切な鑑定人を選定することが難しいのが実状で,最先端の特許が問題となる訴訟では尚更です。今回はじめて採用された制度は,このニーズを埋めるもの,と言えそうです。

 

 

 

228. 【尼崎市のUSB紛失,個人情報保護委員会】22.10.11

さて,少し前になりますが,政府の個人情報保護委員会は2022.9.21,兵庫県尼崎市で全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーが紛失した問題で,市が管理を委託していたBIPROGY(ビプロジー,旧日本ユニシス)に行政指導したと発表しました。

【個人情報保護委員会のHPから】

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/220921_houdou.pdf

 

(2)公表資料を一読頂ければ問題点が分かると思いますが,特に今回の件で注意しないといけないな,と感じたのは,下記に抜粋した再委託先への適切な監督がなされていなかった,という点です。この点は,他の企業でも同じような実状のケースが少なくないと思われ,今一度,点検が必要そうです。

 

【再委託先の部分の抜粋】

「本件業務では,BIPROGY 株式会社の従業者であるプロジェクト責任者の指示の下で,再委託先等の従業者が実業務を担っていたところ,USBメモリを用いた拠点間の個人データ運搬作業を含む個人データの取扱いについて,前記プロジェクト責任者は,具体的な手順や講ずべき安全管理措置に関して何ら指示することなく,再委託先等の従業者らに一任し,その検討結果の確認も行わず,また,再委託先等に対し実際の個人データの取扱いについて報告を求め又は指示を行うことをしないなど,個人データの取扱状況を把握しておらず,再委託先等の監督を適切に行っていなかった。」

 

 

 

229. 【ビジネスと人権②技能実習生】22.10.17

さて,2022.10.10の朝日新聞に,「ベトナム人技能実習生11人を受け入れる愛媛県西予市の縫製会社で2019年以降,月100時間を超える違法な残業が常態化し,1人につき少なくとも計約160万円の賃金未払いが生じていることが9日までに分かった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,厚生労働省が公募した医療用ガウンの生産も請け負っていた。技能実習制度は厚労省や法務省などが所管している。」との記事がありました。

 

(2)この点,2022.9.26のbcc通信225でご紹介した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(いわゆる,ビジネスと人権ガイドライン)においても,下記のとおり具体例として技能実習生のことが紹介されています。

https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html

 

【挙げられている例】

例:技能実習生を含む外国人や女性に対して,脆弱な立場の従業員における人権課題一般(例:外国人や女性であることのみを理由とした賃金差別)や,新型コロナウイルス影響下での労働環境の変化等について,ヒアリング等の調査を実施し,特定された課題に対応する。また,調査に当たっては,対象者にとってコミュニケーションが容易な言語を用いる。

 

例:法律によって明示的に禁止されているにもかかわらず,自社内において,技能実習生の旅券(パスポート)を保管したり,技能実習生との間でその貯蓄金を管理する契約を締結していたりしたことが発覚したため,社内の他部門はもちろん,サプライヤーに対しても,そうした取扱いの有無を確認するとともに,それらが違法であることを周知し,取りやめを求める。

 

例:サプライヤーが,技能実習生に技能実習に係る契約の不履行について違約金を定める契約の締結を強要したり,旅券(パスポート)を取り上げたりしている不適切な状況が確認されたことから,そのサプライヤーに対して事実の確認や改善報告を求めたが,十分な改善が認められなかったため,実習先変更や転籍支援を行う監理団体に対して連携・情報提供するとともに,そのサプライヤーからの今後の調達を行わないこととする。

 

例:技能実習生を受け入れている企業は,悪質な仲介業者が介在していないかや不適正な費用を技能実習生が負担していないか等を,監理団体と連携しながら技能実習生本人や現地の送出機関に対して確認する。特に,ベトナム社会主義共和国から技能実習生を受け入れている企業は,日本政府がベトナム政府との間で合意した技能実習生等の送り出しに関するプラットフォームの運用が開始された際には,送出機関が同プラットフォームを活用することを促す。

 

例:自社において,技能実習生との合意に基づかない家賃や光熱水費の天引きが行われていたり,夜間労働に係る割増賃金の支払いが適切に行われていなかったりしたことが発覚したことを受け,天引きについて丁寧な説明を実施した上で技能実習生の自由意思に基づく承諾を得るとともに,未払金を即座に支払う。

 

(3)上記の技能実習生を取上げたガイドラインの具体例を見ても分かるように,ビジネスと人権の問題は,自社の中での問題だけではなく,取引先への働き掛け,という場面が出てきますが一朝一夕に対応するのは難しい面もあります。「責任あるサプライチェーン」の実務を今後,どう具体化していくか,企業にとって大きな課題となりそうです。

 

 

 

230. 【音楽教室の生徒の演奏に関する最高裁判決】22.10.25

さて,昨日(2022.10.24),最高裁判所第1小法廷は,音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏について,音楽教室は著作権を管理しているJASRAC(日本音楽著作権協会)に対して著作権料を支払わなくてよい,という判断を下しました(上告棄却)。

 

(2)この点,著作権法では,次の定めがあります。

(上演権及び演奏権)

第二十二条 著作者は,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し,又は演奏する権利を専有する。

 

(3)このこともあり,音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏の目的が問題となりました。今回の判決は次のとおりの判断を下しました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/473/091473_hanrei.pdf

 

 

「所論(※筆者注:JASRACの上告理由のこと)は,生徒は被上告人ら(※筆者注:音楽教室)との上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており,被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに,被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には,法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。

 

 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては,演奏の目的及び態様,演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は,教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し,その向上を図ることを目的として行われるのであって,課題曲を演奏するのは,そのための手段にすぎない。そして,生徒の演奏は,教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり,上記の目的との関係では,生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって,教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても,これらは,生徒の演奏を補助するものにとどまる。また,教師は,課題曲を選定し,生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが,これらは,生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず,生徒は,飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって,演奏することを強制されるものではない。なお,被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが,受講料は,演奏技術等の教授を受けることの対価であり,課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。

これらの事情を総合考慮すると,レッスンにおける生徒の演奏に関し,被上告人

らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。」

 

(4)新聞報道されているように,裁判では音楽教室における講師の演奏については,音楽教室が利用主体であり,著作権料を支払わなくてはならない,ということで決着しているようです。何だか,「双方,痛み分け」というような判決に感じますが,今後は,音楽教室における講師の演奏についての適切な著作権料がどの程度か,が音楽教室とJASRACの間で協議されることになりそうです。

 

 

 

231. 【法人代表者の住所のネット閲覧の方針転換】22.10.31

さて,bcc通信196(22.2.22)で,法務省が,「法人登記情報をネット上で閲覧できる有料サービスについて,9月1日から,企業の社長ら代表者の住所の開示をやめると発表した」とお伝えしていました。

 

(2)ところが,今朝(2022.10.31)の日経新聞でも報道されていたように,このルール変更が9月の施行直前に取りやめになった(このため,現在,ネット上で代表者の住所を閲覧できる),とのことです。もともとプライバシー保護のための法務省の省令改正案でしたが,行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指すデジタル庁などが難色を示したようです。

 

(3)まあ,弁護士業務をやっている身からすると,利便性が落ちなくて良かったな,との感想ですが,強烈な個性の担当大臣のもと,個人情報保護とDX化の推進をどう折り合いをつけていくか,今後も色々紆余曲折がありそうです。