暴力団排除条項に基づく契約解除が有効とされた裁判例のご紹介 – 久保井総合法律事務所

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2013年02月09日
コラム

弁護士:久保井 聡明

暴力団排除条項に基づく契約解除が有効とされた裁判例のご紹介

1 はじめに
  平成23年10月に東京と沖縄で暴力団排除条例が施行され,全国全ての都道府県で暴力団排除条例が施行されました。このような社会情勢のもと,昨今は契約書に暴力団排除条項を盛り込むのが通例と言ってよい状況にあります。ただ一方で,実際に契約書の暴力団排除条項に基づき契約を解除した場合,本当に有効なのだろうか,訴訟になった場合,具体的にどのようにして暴力団組員であることを立証していくのだろうか,など,不安を持っておられる方もおられると思います。
 この点について,当事務所の鈴木節男弁護士と私が代理人を務め,暴力団排除条項に基づく契約解除が有効であると判断された判決を得ましたので,ご紹介します(大阪地裁平成23年8月31日判決・金融法務事情1958号118頁に掲載,判決確定)。

2 事案の概要
  本件事案は,ホテルを運営するY社との間で,平成21年8月,結婚式および披露宴を行う契約(以下「本件契約」)を締結したXら夫婦が,本件ホテルの宴会規約に定められている,いわゆる暴力団排除条項に基づき,Y社から一方的に契約を破棄され,予定どおりに結婚式および披露宴を行うことができなかったと主張し,Y社に対し,債務不履行または不法行為に基づき約300万円の損害賠償を求めたものです。
 紙幅の都合上詳細な事案の紹介は省きますが,概略を記すと次のとおりです。
 Y社はX夫婦との間で平成21年8月,本件契約を締結したのですが,その後,同年9月に本件ホテルのレストランで食中毒事件が発生し,数日間の営業停止処分を受けました。Y社はその時点で結婚式や披露宴などの予約の入っていた顧客全てにお詫びを行いその了承を得ましたが,X夫婦だけは通常では考えられないような高額値引きを求め了承しませんでした。X夫婦の結婚式の日取りは同年11月で,まだ相当先であったにも拘わらず,あまりに強硬なX夫婦の態度に違和感を覚え警察に相談したところ,X夫婦の夫(以下,X夫婦のうち夫の方を「X夫」といいます。)は六代目山口組の暴力団組員である,ということが判明しました。そこでY社は,Xらに対し,本件契約に定められた下記の暴力団排除条項(以下「本件暴力団排除条項」)に基づき本件契約を解除しました。これに対し,Xらは,Y社に対し損害賠償請求を行ったものです。

【本件暴力団排除条項の内容】
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律…による指定暴力団および指定暴力団員等の当ホテル利用はご遠慮いただきます。(ご予約後,あるいはご利用中にその事実が判明した場合は,その時点でご利用をお断りします)また,反社会的団体員(暴力団および過激行動団体など,並びにこの構成員)の当ホテル利用はご遠慮いただきます。(ご予約後,あるいはご利用中にその事実が判明した場合は,その時点でご利用をお断りいたします。)」

3 本件の争点
  本件の争点は,本件暴力団排除条項に基づく本件契約の解除が違法か否か,です。特に裁判でXらは,①X夫は,自らがかつて六代目山口組a会b会の組員であったことは事実であるが,本件契約締結前の平成21年6月に既にb会から破門されており暴力団員ではなかった(その証拠としてX夫が破門された旨の記載された破門状を提出),よって本件暴力団排除条項は適用されない,②結婚式及び披露宴という反社会性を有しない目的で本件ホテルを利用する場合には,本件暴力団排除条項は,その合理性・正当性を欠き,消費者契約法10条により又は公序良俗に反し(民法90条),無効である,などと主張しました。

4 暴力団組員であることについての立証活動
  この点,上記3①のX夫が暴力団組員であることの立証について,私たちY社側の代理人弁護士は,弁護士法23条の2(これは,弁護士が受任事件について,所属する弁護士会を通じて公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる,という制度で,弁護士にとっても最も有力な証拠収集手段となっています。)に基づき,警察に複数回に亘って弁護士照会を行い,その結果,警察から,次のような回答を得て,これを証拠として提出しました。
A)警察がX夫について指定暴力団員として把握している
B)X夫が破門されたと主張している平成21年6月よりも後の同年7月に,当該山口組a会の組事務所を捜索した際,同事務所内に,X夫の名札が掲げられ,同事務所の当番表にもX夫を示す名前が記載されていた
C)同じく同年9月,X夫が警察署に「六代目山口組a会b会 本部長X夫」と自書した上申書を提出している
D)同年10月,警察がb会の組事務所を捜索した際,X夫がb会会長とともに捜索に立ち会い,b会会長の名刺を提出した

5 裁判所の判断
  結論として判決は,Xらの上記3①②の主張をいずれも退け,Y社が本件暴力団排除条項に基づき本件契約を解除したことは有効であると判断しました。以下,判決文を引用します。
(1)X夫が暴力団の組員であったかどうかについて
「この点,原告らは,原告X夫は,本件契約締結前の平成21年6月にb会から破門され,既に暴力団員ではなかったから,本件規約条項は適用されないと主張し,b会会長作成の破門状…を提出する。
 しかし,「破門」ないし「破門状」の作成・送付によって,暴力団の構成員ではなくなるのかどうかは明らかではない上,本件では,前記…のとおり,上記「破門」の時期以後においても,原告X夫は,所属団体名を用いたり,b会会長とも関係を継続していること及び原告らの主張する上記「破門」の時期と,本件契約締結時とは近接していることからすると,上記「破門」により原告X夫が本件契約締結時に既に暴力団員ではなかった(本件規約条項の適用対象に当たらない)ということはできない(なお,原告X夫が,「破門後,b会の構成員から,殴られたり,山に連れて行かれたり,経営する店のガラスを割られたりした」旨供述するところからすると,「破門」によっても,直ちに暴力団との関係がなくなるものではなく,暴力団員であるのと同様に,その周辺に暴力の危険が生じていることになり,本件規約条項が適用されるべき場合に当たるともいいうる。)。」
(2)結婚式等の目的の場合には暴力団排除条項が適用されないとの主張について
「原告らは,原告夫が暴力団員に当たるとしても,結婚式及び披露宴という目的で利用する場合には,本件規約条項は合理性を欠き無効である,又は,本件規約条項を適用することは信義則に反すると主張する。
 しかし,本件規約条項は,本件ホテルの宴会場の利用全般について適用されるものとして定められており,暴力団排除の趣旨は,利用者の属性に基づくものであって,宴会場の利用目的如何によるものではない上,原告X夫の供述によれば,原告X夫は暴力団員から襲撃を受けたことがあるということであり,宴会場利用者が暴力団員であることにより他の不特定多数の利用客が襲撃に巻き込まれる危険性は,利用目的が結婚披露宴であっても変わりないといえるから,結婚式及び披露宴という目的で利用する場合に本件規約条項が無効になるとはいえない。」

6 本判決の評価について
  本判決はXらが控訴しなかったため地裁段階で確定しましたので,事例判断の1つにとどまります。しかしながら,判決において暴力団排除条項について真正面から有効性を認めたことの意義は大きいと思います。特に本件の事案は,結婚式・披露宴の目的であり,Xらが主張していたように,一般論で言えば,それだけでは反社会性を有するとは評価できない事案でした。Xらが食中毒問題にかこつけて不合理な値引き要求をしていたという事案の特殊性があるとは言え,判決が利用目的に拘わらず本件契約の暴力団排除条項が有効であると判断したことは,今後の同種事案に対しても勇気を与える判断だと思います。
  また,本件では,X夫は,既に本件契約時点で破門されていたという抗弁を提出していましたが,判決はこの点についても警察からの弁護士照会に対する回答を根拠に排斥しました。やはり,暴力団組員であることの立証については警察の協力を十分に得ることが必要不可欠である,と再認識させられる事案でした。この点,警察庁刑事局組織犯罪対策部長は,平成23年12月22日,「暴力団排除等のための部外への情報提供について」という通達を発し,従来よりも暴力団情報の提供を受け易くなっています。暴力団など反社会的勢力との関係遮断にあたっては,事前に警察・弁護士とよくご相談をして頂くことが大切である,と言えます。