市営住宅条例の暴排条項についての最高裁合憲判決 – 久保井総合法律事務所

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2015年04月15日
コラム

弁護士:久保井 聡明

市営住宅条例の暴排条項についての最高裁合憲判決

1 はじめに
 平成27年3月27日、最高裁判所第2小法廷は、西宮市営住宅条例のいわゆる暴排条項について、憲法14条1項及び22条1項に違反しない、との判決を下しました(上告棄却、裁判所HP。以下「本判決」)。本判決では地方公共団体の条例の暴排条項の憲法適合性が正面から取り上げられ、合憲判断が示されたという点で重要な意義を有するものです。そこで、本稿では本判決の概要をご紹介し、若干の私見を述べます。

2 問題となった西宮市営住宅条例の内容
 本判決の裁判要旨は、裁判所HPによると、「西宮市営住宅条例46条1項柱書及び同項6号の規定のうち、入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分は、憲法14条1項及び22条1項に違反しない」というものです。この点、問題となった条例は次のような内容でした。
 

 西宮市営住宅条例46条1項柱書

「市長は、入居者が次の各号にいずれかに該当する場合において、当該入居者に対し、当該市営住宅の明渡しを請求することができる。」

 同項6号

「暴力団員であることが判明したとき(同居者が該当する場合を含む。)。」

 7条5号

「暴力団員 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号に規定する暴力団員をいう」

 
2 本判決の事実関係
 本判決によると、本件の事実関係は次のとおりです。
 

【時系列】

H17.8 西宮市は市営住宅条例に基づき西宮市が所有する本件住宅の入居者をY1に決定

H19.12 西宮市は条例改正し46条1項6号の規定(本件規定)を設ける(★入居後改正)

H22.8 西宮市はY1に対し、その両親であるY2及びY3を本件住宅に同居承認→その際、Y1及びY2は、「名義人又は同居者が暴力団員であることが判明したときは、ただちに住宅を明け渡します」との記載のある誓約書を西宮市に提出

H22.10当時 Y1は六代目A組三代目B組C會所属の暴力団員であった

H22.10 西宮市は兵庫県警からの連絡によりY1が暴力団員であると知る→本件規定に基づきH22.11月30日までに本件住宅を明け渡すことを請求

【本件住宅の居住状況】
 また、Y1は従前から別の建物を賃借してそこに居住しており本件住宅には現実に居住することはなく、両親であるY2及びY3のみが居住している、と認定されています。

3 上告理由
 本判決で整理された上告理由は次の3点とされています。
① 本件規定は合理的な理由のないまま暴力団員を不利に扱うもので憲法14条1項に違反する。
② 本件規定は必要な限度を超えて居住の自由を制限するもので憲法22条1項に違反する。
③ Y1は近隣住民に危険を及ぼす人物ではないし、Y2、Y3は身体に障害を有しているから本件住宅の使用の終了に本件規定を適用することは憲法14条1項又は22条1項に違反する。

4 判決内容
 これら上告理由に対する最高裁の判断は次のとおりです。

(1)上告理由①について
 「地方公共団体は、住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤であることに鑑み、低額所得者、被災者その他の住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保が図られることを旨として、住宅の供給その他の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を策定し、実施するものであって(住生活基本法1条、6条、7条1項、14条)、地方公共団体が住宅を供給する場合において、当該住宅に入居させ又は入居を継続させる者をどのようなものとするのかについては、その性質上、地方公共団体に一定の裁量があるというべきである。
 そして、暴力団員は、前記のとおり、集団的又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員と定義されているところ、このような暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはでききない他方において、暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であり、また、暴力団員が市営住宅の明渡しをせざるを得ないとしても、それは当該市営住宅には居住することができなくなるというにすぎず、当該市営住宅以外における居住についてまで制限を受けるわけではない
 以上の諸点を考慮すると、本件規定は暴力団員について合理的な理由のない差別をするものということはできない。したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反しない。

(2)上告理由②について
 「また、本件規定により制限される利益は、結局のところ、社会福祉的観点から供給される市営住宅に暴力団員が入居し又は入居し続ける利益にすぎず、上記の諸点に照らすと、本件規定による居住の制限は、公共の福祉による必要かつ合理的なものであることが明らかである。したがって、本件規定は、憲法22条1項に違反しない。」

(3)上告理由③について
 「そして…Y1は他に住宅を賃借して居住しているというのであり、これに…誓約書が提出されていることなども併せ考慮すると、その余の点について判断するまでもなく、本件において、本件住宅…の使用の終了に本件規定を適用することが憲法14条1項又は22条1項に違反することになるものではない

(4)本判決が引用した2つの最高裁大法廷判決
 本判決は、上記(1)~(3)の判断を導くにあたって、「以上は、最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁に徴して明らかである」として、2つの最高裁大法廷判決を引用しました。引用された2つの大法廷判決の要旨は次のとおりです。

ア 最高裁昭和39年5月27日大法廷判決
 この判決は、地方公共団体において職員の定数例を定めて過員を整理する場合に、その整理の対象となる者をいかにして決定すべきか、その職員が高齢であることを右決定の基準に採用できるものかどうかが問題とされた事例です。
 最高裁は、地方公務員の何人に待命を命ずるかは、任命権者が諸般の事実に基づき公正に判断して決定すべきもの、すなわち、任命権者の適正な裁量に任せられているものと解するのが相当、としたうえで、「55歳以上の高齢であることを待命処分の一応の基準としたうえで、しかも、その勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件待命処分に出たことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、高齢である上告人に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものと認められないから、憲法14条1項に反しない。」と判断しました。

イ 最高裁平成4年7月1日大法廷判決
 この判決は、いわゆる成田闘争に絡む行政事件として初めて最高裁の憲法判断が示された事件です。昭和53年5月13日、新東京国際空港の安全を確保するため、過激派集団の出撃の拠点となっていたいわゆる団結小屋の使用禁止を命ずることができること等を内容とする成田新法が公布、施行されました。運輸大臣は、昭和54年以降、毎月2月に原告に対し、成田新法3条1項に基づき、空港の規制区域内に所在する原告所有の通称「横堀壅塞」を、1年の期間、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」又は「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供することを禁止する旨の処分を行いました。原告は本件使用禁止命令を、成田新法3条1項が憲法21条1項、22条1項、29条1項、2項、31条、35条に違反し、違憲無効であるとして取消請求を行いました。
 最高裁平成4年判決はいずれについても憲法に違反するものではない、としましたが、本判決に関連する憲法22条1項の居住の自由との関係については、「工作物使用禁止命令により多数の暴力主義的破壊活動者が当該工作物に居住することができなくなるとしても、右工作物使用禁止命令は…新空港の設置、管理等の安全を確保するという国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からの極めて強い要請に基づき、高度かつ緊急の必要性の下に発せられるものであるから、右工作物使用禁止命令によってもたらされる居住の制限は、公共の福祉による必要かつ合理的なものであるといわなければならない。したがって、…憲法22条1項に違反するものではない。」と判断しました。

5 本判決をどう見るか-私見
 以下、何点か本判決をどう見るか、私見を書きたいと思います。

(1) 暴排条項の憲法適合性に関する流れの定着
 一つは、本判決により最高裁においても暴排条項の合憲性の判断が定着した、ということが重要と思います。
 すでに最高裁は、刑事事件に関してですが、暴排条項が合憲であることを前提にして判決や決定を出してきました(①平成26年3月28日最高裁第2小法廷判決(25年あ第3号)【ゴルフ場利用の詐欺事件について破棄自判し逆転無罪判決】、②平成026年3月28日最高裁第2小法廷決定(25年あ725号)【ゴルフ場利用の詐欺事件について原審とおり有罪判決】、③平成26年3月28日最高裁第2小法廷判決(25年あ911号)【ゴルフ場利用の詐欺事件について破棄自判し逆転無罪判決】、④平成26年4月7日最高裁第2小法廷決定(24年あ1595号)【貯金の新規預入申込みの詐欺事件について原審とおり有罪判決】)。本判決では、憲法14条1項と22条1項について明確に合憲判断を下し、具体的事例のもとでの適用違憲の主張も退けました。

(2) 一般的抽象的に「生活の平穏が害されるおそれ」で足りる、とした点
 次に、本判決が暴力団組員が居住することによる個別具体的な危険性を問題とせず、一般的抽象的に「市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれ」を問題とし、それで足りる、とした点の重要性が指摘できます。
 この点、前記2の本判決の事実関係の【本件住宅の居住状況】で紹介したように、本件住宅には暴力団組員であるY1自身は居住しておらず、その両親であるY2とY3のみが居住していました。そうであったとしても本判決は、「市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない」としています。これまでも、暴力団組事務所の撤去を求める訴訟などでは、当該組事務所が存在することにより個別的具体的危険性がどこまであるのかが問題とされがちでした。しかしながら、今後はこの点について一般的抽象的な危険で足りる、という流れになると思われます。ただ、本判決がこのように判断した理由は、暴対法上、「暴力団員は、前記のとおり、集団的又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員と定義されている」→だから、「このような暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない」としている点には注意が必要でしょう。最近の暴排条項では、暴対法上の暴力団員以外の属性についても排除の対象としていますが、その場合に本判決がどこまで射程範囲に及ぶのか、個別具体的に判断される可能性があります。

(3) キーワードとしての「自らの意思」での選択可能性
 三つ目に、本判決が憲法14条1項に違反しない、と判断するにあたって「自らの意思」での選択可能性をキーワードに挙げたことが指摘できると思います。
 前記4判決内容(1)上告理由①でご紹介したように、本判決は「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能」であることを理由の一つにあげています。この「自らの意思」というキーワードで思い出されるのが、非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1であることについて憲法14条1項に違反し違憲であるとした平成25年9月4日最高裁大法廷決定です。少し長くなりますが、同大法廷決定は次のように判断しています。

 「本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。」

 本判決と上記大法廷決定を比較すると、「自らの意思」により選択することができるものか否か、が重要視されていることが理解できます。本判決は、暴対法上の暴力団員に関する事例ですので、比較的「自らの意思」による選択可能性ということが言い易い事例でした。このような枠組みでの判断が、指定暴力団組員以外の属性の場合にどこまで適用できるのか、今後もやはり射程範囲が問題になる可能性はあります。

(4) 最後に、これは本判決自体の問題ではありませんが、現在国会に提出されている民法改正案の定型約款の変更との関係に少し触れておきます。前記2の本判決の事実関係の【時系列】★で指摘したように、本件では本件住宅にY1が入居した後に西宮市の条例が改正され暴排条項が導入されています。同様の問題は、定型約款が利用される民間同士の契約においても問題となり得ます。この点、民法改正案では、定型約款に関する規律を民法に導入し、定型約款の変更についても次のような条文を設けることが予定されています。
 

(定型約款の変更)

第548条の4 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。

 一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

 二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

3 第1項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければその効力を生じない。

4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

 この条文を見ると、定型約款の変更が効力を生じるか否かを検討するには、①変更内容と、②変更手続の両面から考えることが必要になりそうです。その視点に従って上記の条文をまとめたのが下記の表です。

【定型約款の変更について】

変更内容について(548条の4第1項)

変更手続(548条の4第2項、第3項)

(ア)定型約款の変更が、「相手方の一般の利益に適合するとき」(一号)

(イ)定型約款の変更が、「契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」(二号)

 

このいずれかに該当すれば、「変更後の定款約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる」

【548条の4第2項】

定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、下記の措置をしなければならない。

(a)その効力の発生時期を定め

かつ

(b)定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知

【548条の4第3項】

⇒左記変更内容(イ)の規定による定型約款の変更は、上記(a)の効力発生時期が到来するまでに、(b)の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。

 仮に定型約款に暴排条項の定めがなく、変更によりこれを新たに導入した場合、上記の表の左側にある変更内容について見ると、契約の解除事由等が形式的には追加されることになるため、「相手方の一般の利益に適合する」ということは難しい、と思われます。ただ、今回の最高裁判決や近時の反社排除の流れからすれば、少なくとも、「契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には該当することになると思われます。
 あとは上記の表の右側にある変更手続をきちんと履行することにより、有効な定型約款の変更を行うことができる、と考えられます。