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トピックス/コラム詳細

2021年03月19日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信21.2.22~3.5(約束手形廃止,孔子廟敷地使用料免除最高裁大法廷違憲判決,今日から改正会社法施行,国家公務員倫理規程,機関投資家)

114. 【約束手形廃止の方向へ】21.2.22
さて,新聞報道によると,経済産業省は、企業間の支払いに使う紙の約束手形について、2026年をめどにやめるように産業界へ呼びかける方針を示した,と のことです。現金化に時間がかかり、支払いを受ける中小企業の資金繰りを圧迫する恐れがあるということで、有識者会議が検討してきたようで,今夏をめどに 5年間の自主行動計画の策定を求める,と報道されています。

私か司法試験を受験していたころ(平成3年に合格したのでもう30年前ですが)は,商法の論文式試験の2問のうち1問は,手形小切手法から出題されていました。平成6年に弁護士登録してからも,手形訴訟は結構の頻度である依頼でしたが,このところ,滅多に依頼されない状況になっていました。今後は電子債権に移行していく,ということでしょうね。時代の流れを感じます。

下記が,報告書の骨子です。7頁以降に廃止の方向性が書かれています。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shiharaikaizen/2021/210219shiharaikaizen03.pdf

115. 【孔子廟敷地使用料免除最高裁大法廷違憲判決】21.2.25
さて,中国の思想家で儒教の祖・孔子を祭る「孔子廟(びょう)」がある敷地の 使用料を那覇市が徴収しなかったことについて,最高裁大法廷は昨日 (21.2.24)、「特定の宗教を援助したと評価されてもやむを得ない」とし、無償で公有地を使わせるのは政教分離を定めた憲法に反するとの判決を出しました。裁判官15人のうち14人の多数意見で,1名の反対意見がありました。

問題となった憲法の条項は下記です。

第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体 も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

最高裁の判決は下記のURLです。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90039

116. 【今日から改正会社法施行】21.3.1
さて、今日(21.3.1)から、改正会社法が施行されます(一部は令和4年度か らの施行)。

法務省のHPによると概要は次のとおりです。特に③の取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないとの規律については、多くの対象会社 が2月の取締役会で対応を行っているようです。また、6月の株主総会で事業報告の対象になりますので、株主からの質問や意見が出されることが予想されますので、十分な準備が必要です。

法務省の改正会社法概要説明は下記です。
http://www.moj.go.jp/content/001310775.pdf

【改正会社法の概要】
①株主に対して早期に株主総会資料を提供し,株主による議案等の検討期間を十分に確保するため,株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対し当該ウェブサイトのアドレス等を書面で通知する方法により,株主に対して株主総会資料を提供することができる制度の創設(★この点の施行は令和4年度から)
②株主提案権の濫用的な行使を制限するため,株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を10までに制限
③取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ,また,株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため,上場会社等の取締役会は,取締役の個人別の報酬等に関する決定方針を定めなければならないこととする。また、上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には,金銭の払込み等を要しないこととするなどの規定を設ける。
④役員等にインセンティブを付与するとともに,役員等の職務の執行の適正さを確保するため,役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償することを約する補償契約や,役員等のために締結される保険契約(D&O保険)に関する規定を設ける。
⑤我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するため,上場会社等に社外取締役を置くことを義務付ける。
⑥社債の管理を自ら行う社債権者の負担を軽減するため,会社から委託を受けた第三者が,社債権者による社債の管理の補助を行う制度(社債管理補助者制度) を創設する。
⑦企業買収に関する手続の合理化を図るため,株式会社が他の株式会社を子会社化するに当たって,自社の株式を当該他の株式会社の株主に交付することができる制度を創設する。

117. 【国家公務員倫理規程】21.3.3
さて、総務省幹部や農水省幹部の国家公務員倫理規程違反が大きな問題となっ ています。

(1)この点、国家公務員が、その職務に関して賄賂を受け取ったりすると刑法の収賄罪に、賄賂を渡した方も贈賄罪になります。下記の刑法197条はもっとも基本的な収賄である単純収賄罪についての条文、198条は贈賄罪の条文です。
注意すべきは、たとえ公務員が正当な業務を行うにあたって賄賂をもらっても単純収賄罪が成立する、ということです。賄賂をもらってさらに不正な職務を行うと加重収賄罪というより重い罪に該当することになります(刑法197条の3)。
【刑法】
(収賄、受託収賄及び事前収賄)
第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂ろを収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下の懲役に処する。
(贈賄)
第百九十八条 第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与 し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円 以下の罰金に処する。

(2)ただ、収賄罪が成立するには、「職務に関して賄賂」を受け取るという対価関係があったことを証明する必要があり、なかなか立証が難しい、と言う問題 がありました。特に地位の高い公務員であればあるほど、職務権限が大きな政策 決定ということになってくるため、対価関係の立証は難しいのが実情です。

他方で、公務員が利害関係者(許認可等の相手方、補助金等の交付を受ける者など、国家公務員の職務と利害関係を有する者)から接待などを受けることがはびこると、国民から見ると、「公務員は本当に公平に仕事をしてくれているんだろうか」、と疑問を持つようになってしまいます。これでは公務に対する信頼を害することになってしまいます。そこで、たとえ、「職務に関して賄賂」を受け取るというところまでいかなくても、利害関係者から接待を受けたりすること自体を禁止しよう、また、たとえ利害関係者と言えなくても、過度な接待を受けることも禁止しよう、ということで国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程が定められています。

(3)今回の一連の問題が収賄罪まで問題となるのか、どうかは分かりませんが、国家公務員倫理規程違反にあたることは明白で公務に対する信頼が大きく害されてしまったことは残念なことです。

(4)以下、人事院の国家公務員倫理審査会のHPの情報です。特に、事例集の目次を見ていただくと、様々な手法で国家公務員に対して接待をしようとする業者がいるんだろうな…、と実態が浮かび上がるように思いました。

【国家公務員倫理規程の概要】
https://www.jinji.go.jp/rinri/gaiyou/koudou.pdf

【国家公務員倫理規程論点整理・事例集】
https://www.jinji.go.jp/rinri/04zentaiban_r2.pdf

118. 【機関投資家】21.3.5
さて,機関投資家が株主総会の議決権行使を積極的に行うようになり,企業側の意識も徐々に変化が起きています。取締役の選任議案,役員報酬など古典的な問題から,ESGやSDGsへの取組みなどへ広がっています。

今朝の日経新聞(21.3.5)を見ていると,「なるほどなー」,という記事が2つありましたので,紹介しておきます。預かったお金をどう運用するのか,預かった先への説明責任をどう果たすのか,機関投資家の方も色々あるんでしょうね。

①一つ目は,「第一生命保険は2025年までに投資先による二酸化炭素(CO2)排出量を20年比で約3割減らす中期計画を実行に移す。23年度までに7000億円規模の株式売却などでCO2排出が多い企業の株式の保有を減らす。こうした中期目標は国内機関投資家で初めて。50年までに排出量の実質ゼロをめざす。企業の脱炭素の動きが加速しそうだ。」との記事です。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69673620U1A300C2EE9000/

②二つ目は,「ノルウェー政府年金基金は3日、キリンホールディングス(HD)株について、保有継続の是非を検討する監視対象に指定した。クーデターが起きたミャンマーでの事業をめぐり、合弁を組む国軍系企業との関係に倫理上の懸念を示した。提携の解消が進むか注視する。」との記事です
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69676350U1A300C2TJ2000/