久保井L⇔O通信22.7.4-7.19(時代のキーワード?優越的地位濫用,株主代表訴訟の印紙代?,制服への着替え時間と労働時間) – 久保井総合法律事務所

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トピックス/コラム詳細

2022年08月01日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信22.7.4-7.19(時代のキーワード?優越的地位濫用,株主代表訴訟の印紙代?,制服への着替え時間と労働時間)

216. 【時代のキーワード?優越的地位の濫用】22.7.4
さて,少し前のニュースになりますが,グルメサイト「食べログ」で評価点が不当に下がり,売り上げが減少した,として,飲食チェーン店がサイト運営会社に約6億4000万円の損害賠償などを求めた訴訟で,東京地裁が2022.6.16,独占禁止法が禁じている「優越的地位の乱用」に当たると判断して,チェーン店側の請求を認め3840万円の支払いを命じました。

 

(2)2022.6.17の日経新聞によると,食べログは2022年時点で掲載店舗数が約 82万店,サイトの月間利用者数は8700万人を超え,公正取引委員会の2020年の調査では,消費者の約83%が点数を参考に飲食店選びをしている,ということです。そのような状況のもとでは,飲食チェーンにとって,「食べログの有料会員登録をする店の地位継続が困難になれば経営上大きな支障を来す」,運営会社が「不利益な要請を行っても(飲食店側が)受け入れざるを得ない立場」として優越的地位にあると認定し,評価点を決めるルールの「アルゴリズム」(計算手法)の変更は「あらかじめ計算できない不利益を与えるもので,公正な競争秩序 の維持から是認される商慣習に照らして不当であり,優越的地位の乱用に該当す る」「チェーン店が不利益になることを容認して変更しており,故意または重大な過失がある」,などと判断した,とのことです。

 

(3)大阪地裁でも優越的地位の濫用に関係する注目判決が出されました。24時間営業を取りやめたセブン―イレブン東大阪南上小阪店の元オーナーが,セブン―イレブン・ジャパンを相手取り,フランチャイズチェーン(FC)契約解除は不当だとして地位確認などを求めた訴訟で,大阪地裁は2022.6.23,元オーナー側の請求を棄却する判決を言い渡しました。この事件はコンビニエンスストアの24時間営業を巡る議論が活発化するきっかけになりましたが,2022.6.24の日経新聞によると,判決では,「セブン側は時短営業を容認する意向を示し,契約内容の 変更を持ち掛けたにもかかわらず,元オーナーは応じなかったと指摘」「その上で契約解除は利用客に乱暴な言動を繰り返すなど,元オーナーにセブンのブラン ドイメージを傷つける対応があったことが理由だと認定」「(解除は)時短営業を始めたことへの意趣返し」とする元オーナーの主張を退け,優越的地位の濫用にあたらない,と判断した,とのことです。

 

(4)いずれの判決も控訴審でどのように判断されるか注目ですが,優越的地位の濫用は時代のキーワードと言えそうです。

 

 

 

217. 【株主代表訴訟の印紙代って?】22.7.14
さて,2022.7.13,東京地方裁判所は東京電力福島第1原子力発電所事故を巡る株主代表訴訟で,旧経営陣に対して,13兆3210億円の支払を命ずる判決を言い渡しました。まだ一審判決で,今後控訴審や最高裁で判断されることになると思いますが,13兆円という金額はとても個人で払える金額ではありません(何しろ,イーロンマスク氏のツイッターの買収提案金額が6兆円)。原発事故についての国と民間の責任分担のあり方を含めて議論されるきっかけになる可能性もありそうです。

 

(2)ところで,この訴訟では報道によると,当初,株主側は22兆円を支払うように求めていた,とのことです。みなさんもご存じのように,訴訟を起こすにあたっては,訴訟の目的の価額(お金の支払を請求する事件ではその金額です)に応じて印紙を貼って納める必要があります。具体的には100万円の事件では1万円,1000万の事件では5万円,1億円の事件では32万円,10億円の事件では302万円,と決められています。とすると,22兆円の請求ならどうなってしまうのか? と疑問に感じられる方もおられると思います。

 

(3)この点,会社法には次の条文があります。

「第847条の4 第847条第3項…の責任追及等の訴えは,訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす。」

 ここの「847条の第3項…の責任追及等の訴え」とは株主代表訴訟のことです。「訴訟の目的の価額の算定については」とは,印紙の金額の基準となる訴訟の目的の価額を定めるにあたって,という意味です。問題は,「財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす」という意味です。世の中には,財産権上の請求でない(つまりお金に換算できない事件),というものがあります。典型的には,離婚訴訟はこの「財産権上の請求でない」事件とされています。そして,この場合には,160万円の事件であるとみなして印紙代を計算する,というルールになっています。160万円の事件の場合の印紙代は,1万3000円です。

 

(4)個人間の離婚訴訟と,巨額の株主代表訴訟が同じ印紙代というのはどうもバランスが悪くないか?と感じられる方もおられるかもしれません。どうして株主代表訴訟が,「財産権上の請求でない」とされているのか,ですが,代表訴訟の場合,原告株主が勝訴しても,被告(役員)は会社に対して賠償金を支払うことになります。原告株主には直接賠償金が入ってこないのに,印紙は原告株主が請求金額に応じて納めないといけないとすると,代表訴訟を不当に抑制してしまう,ということから,このような制度になっています。

 

 

 

218. 【制服への着替え時間は労働時間?】22.7.19
さて,2022.7.15の朝日新聞に,「従業員が制服に着替える時間などの賃金を支払っていなかったとして,飲食大手フジオフードシステムが労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかった。国の指針では着替えは労働時間に含まれるが,実際の対応は飲食大手の間でも分かれている。」との記事が掲載されていました。記事では,今回是正勧告を受けたケースでは,更衣室での着替えと店舗への移動で1日30分ほどかかるものの労働時間には含まれなかった,とのことです。この記事では,モスバーガーでは直営店で制服の着替え時間を労働時間に含めているものの,スターバックスでは色などの指定がある私服に会社指定のエプロンをつければいいだけで店内での着替えも義務付けていない,という理由で労働時間に含めておらず,日本マクドナルドでも,通勤時に自宅からユニホームを着てくる方もいて,着替え時間を一律で支給という対応は取っていない,と紹介されていました。

 

(2)記事で引用されている「国の指針」は,厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)です(下記URL)。ここでは,「使用者の指示により,就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)」は, 労働時間として扱わなければならない,とされています。記事で紹介されている各社の対応が分かれているのは,ガイドラインで言う,「着用を義務付」ているのか,「所定の服装への着替え」というレベルにあたるのか,などで認識が分かれているため,と思われます。

【厚労省のガイドライン】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html