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2013年04月30日
知的財産権関係     消費者関係     行政関係

弁護士 : 松本 智子

スマート革命とプライバシー権,肖像権,個人情報保護法

  ここ数年間における,インターネット環境のクラウド化・ワイヤレス化,SNSの定着,スマホ・タブレット端末の普及などのスマート革命によって,毎日、膨大な量のデータが、ネット上に生成・蓄積されています。
 このビッグデータをリアルタイムに分析・利用する技術についても,従来よりも安価にできるように進歩しました。
 そのため,このネット上のビックデータの活用が,最近大きくクローズアップされています。
 具体例としては,各種オンラインショッピングサイトにおける利用者の購買履歴に応じたレコメンド機能や,カメラで撮影した顔の映像から性別や年齢を推測して商品をレコメンドする看板や自動販売機、利用者の位置情報瞬時に分析し交通事故・渋滞情報を伝えるカーナビ、スマートメータにより使用電力を把握し電力の効率的使用・安定供給につなげるスマートグリットなどがあり,今後広がっていくものと考えられます。

 しかしながら,ビックデータには膨大な個人情報等が含まれています。
 ビッグデータ中の個人に関わるデータは、数多くの種類があり,そもそも収集される段階で個人を特定できない形で収集されるもの、個人を特定できるデータの形で収集されたものについて個人が特定できるデータとして活用するもの、個人を特定できるデータの形で収集された後にデータを加工・抽出して個人を特定しないデータとして記録・保存・活用するものもあります。
 これを事業活動に活用するにはプライバシー権,個人情報保護法,肖像権などに注意しなくてはなりません。

 プライバシー権とは、憲法上の権利である幸福追求権の一種で、他人に知られたくない私的な事項をみだりに公表されない権利、私生活の平穏を享受する権利といわれてきました(「宴のあと」事件東京地裁S39.9.28判決※1)。このプライバシー権は,情報化社会の進展に伴い,より積極的に,自己に関する情報をコントロールする権利ととらえられるようになっています。
 ビックデータの管理・利用については,個人情報保護法や住基ネット法※2等のような,法律の明文規定がなく,どの範囲でプライバシー権の保護対象となるかどうか,どのような管理・利用であれば受忍限度の範囲内としてプライバシー権侵害とならないのか,法律の規定がなく,過去のプライバシー権に関する裁判例の射程も明確ではありません。現状では,ビックデータ中の個人に関わるデータは,そのほとんど全てがプライバシー権の保護対象となると考えておいた方が安全といえます。

 次に,個人情報とは,生存する個人を識別することができる情報をいいます(個人情報保護法2条1項)。
 上述のように,活用対象とされる個々のデータは、個人を特定できるデータであるかどうか、濃淡がありますが、他の情報とあいまって、個人を特定できる情報となる懸念は必ずしも払拭されません。個人情報保護法の規制対象となる可能性は残るといわざるをえない状況です。
 個人情報にあたる場合は、個人情報保護法上、安全管理措置義務等が課せられ,目的外利用の禁止、第三者提供の禁止などの規制対象となります。これが遵守されていないと,プライバシー権の侵害を根拠とする損害賠償請求や差止め請求の問題となることになります。※3

 また,ビックデータ中,データ収集時に写真撮影を行い,これを記録・保存する場合、その対象が個人の容貌・姿態のときは、肖像権の侵害にあたる可能性があります(京都府学連事件最高裁S44.12.24判決※4)。
 それ以外の写真を撮影する場合も、プライバシー権として保護対象となる場合があります(ストリートビュー事件福岡高裁H24.7.13判決※5)。

 このほか,ビックデータを活用する事業が,ネットにより,国内にとどまらず,世界の顧客を対象とする場合,日本以外の他の国の法令に違反していないかのチェックも必要となります。

 また,プライバシー権については、一旦それが公開・利用されるなどの侵害が生じた場合は、データが電子化されており容易にコピーされることなどと相まって、被害回復が困難です。
 大量の個人に関するデータが公開・利用されプライバシー権の侵害が生じてしまった場合、その対応に大きな時間・費用・手間がかかるほか、大量の被害者からの損害賠償請求、行政法規による罰則などが科せられる可能性があります。

 上記のとおり、ビッグデータの活用については、プライバシー権を中心として、どのような場合に適法となり、違法となるのか、グレーな部分が多くあるため、共通のルール整備が急務とされており、平成24年秋から、総務省と経済産業省でそれぞれ研究会による議論が始まっています。
 未だ、ルールの整備がなされていない現状においては、できる限り、データの取得とその利用目的等を明示し、対象者の許可・同意を得る方法を模索すべきであると考えられます。

(※1) 「宴のあと」事件東京地裁S39.9.28判決では,プライバシー権を「私生活をみだりに公開されない権利」と定義し,プライバシー権侵害の要件を(1)公表された事柄が私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること,(2)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること,(3)一般の人々に未だ知られていない事柄であることを必要とするとされた。その後の早稲田大学江沢民主席講演会事件最高裁H15.9.12判決で,学籍番号,氏名,住所,電話番号等の個人情報についてもプライバシー権の保護対象となることが明示された。

(※2) 住基ネット事件最高裁平成20年3月6日判決では,住基ネットで管理・利用される本人確認情報がプライバシー権の対象となることは認めたが,住基ネット法に基づく管理・利用がなされていれば,プライバシー権の侵害とはならないとされた。

(※3) 個人情報保護法施行前の事例であるが,TBC事件東京高裁H19.8.28判決では,エステの会員情報約3万7000件の漏えいにつき,プライバシー権侵害の不法行為が認められ,一人当たり3万5000円の損害賠償が命じられた。ヤフーBB事件大阪高裁H19.6.21判決でも,同様にプライバシー権侵害の不法行為が認められている。個人情報保護法上の個人情報にあたるデータについて,個人情報保護法が順守がされていない場合は,上記の事例と同様にプライバシー権侵害が認められることとなる可能性がある。

(※4) 京都府学連事件最高裁S44.12.24判決では,何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由(肖像権)を有しこれを撮影することは憲法13条の趣旨に反し許されないとされた。

(※5) ストリートビュー事件福岡高裁H24.7.13判決では,ベランダに干していた洗濯物(下着)の撮影について,個人の容貌・姿態以外の私的事項に関する撮影もプライバシー権を侵害する行為となりうることを認めたが,本件については,写真に小さく写り込んで具体的な洗濯物が判別できない程度と認定して,受忍限度を超えたプライバシー権侵害でないと判断した。
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