会社法改正議論―特に詐害的会社分割―について – 久保井総合法律事務所

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2011年12月12日
コラム

弁護士:上田 純

会社法改正議論―特に詐害的会社分割―について

近時の上場企業の不祥事により社外取締役の義務付け等が社会的注目を浴びたためご存じの方も多いと思いますが,法務省の法制審議会(会社法制部会)において会社法の見直し議論が進められています。
 会社法は平成17年に大改正を行い,平成18年5月に施行されましたが,施行後約4年経過した昨年22年4月から,法制審議会で見直しの議論が始まったのです。

 今回の見直し議論で取り上げられているのは,社外取締役の義務付けだけではありません。
 具体的には,以下のような見直しが取り上げられています。(「会社法制の見直しに関する中間試案」参照)
  1 企業統治の在り方
  (1)取締役会の監督機能強化
   a 社外取締役選任義務付け
   b 監査・監督委員会設置会社制度新設
   c 外役員の要件見直し・責任一部免除
  (2)監査役の監査機能強化
   a 会計監査人の選解任議案・報酬の決定権等付与
   b 監査の実効性確保の体制の充実・具体化とその運用状況の事業報告項目化
  (3)資金調達場面
   a 支配株主異動を伴う第三者割当増資の総会決議要件化・同情報開示充実
   b 株式併合時の端数株式買取請求制度創設・発行可能株式総数の規律見直し
   c 仮装払込み責任見直し
   d 新株予約権無償割当に関する通知義務
  2 親子会社に関する規律
  (1)親会社株主の保護
   a 多重代表訴訟制度創設
   b 重要子会社の株式譲渡時の親会社総会決議要件化
  (2)子会社少数株主の保護
   a 親子会社の利益相反時の親会社の損害賠償義務明文化
   b 情報開示充実
  (3)キャッシュアウト
   a 特別支配株主による総会決議不要型キャッシュアウト制度創設
   b 全部取得条項付種類株式取得手続における情報開示充実・同取得価格決定申立に関する規律見直し
   c 株主総会取消により株主に復活する元株主の取消訴訟提訴権の明文化
  (4)組織再編における株式買取請求等
   a 買取口座創設
   b 価格決定前の支払制度
   c 易組織再編等における株式買取請求権の不付与
  (5)組織再編の差止請求制度創設
  (6)会社分割等における債権者保護
   a 詐害的会社分割時の残存債権者の承継会社等に対する履行請求制度創設
   b 不法行為債権者の保護
  3 その他
  (1)金商法規制違反者の決議行使制限制度創設
  (2)株主名簿閲覧等請求における競争者による請求の拒絶規定削除
  (3)募集株式が譲渡制限株式である場合等の総数引受契約の総会特別決議要件化
  (4)監査役の監査範囲の登記事項化
  (5)人的分割時の準備金計上不要化
  (6)発行可能株式総数の4倍規制ルール適用対象拡大

 この中で,詐害的会社分割の問題については,平成17年の会社法大改正に伴い,帳簿上債務超過の会社分割登記が受理されない登記実務が改められ(江頭「株式会社法(第3版)」829頁),また,債務履行の見込みがない場合も会社分割は無効とならないとの立法担当者の見解(「論点解説新会社法」673頁)が示されるようになったこと等から,窮状に陥った会社が,債権者に秘密裡に目ぼしい事業を換価性の低い分割先(承継会社等)の株式と引き換えに丸ごと分割し,悪い事業を多額の債務と共に残存させ,そのまま倒産させる等,実質的に残存債権者の債権回収の引き当てのなるべき資産を減少(或いは配当率減少)させる等会社分割制度を濫用した事案において,近時,詐害行為取消や法人格否認,会社法22条(商号続用者)責任等を認めて,是正を図る判例が多数現れてきています。

 会社法見直し議論においては,このような濫用的分割に対応するため,民法424条の詐害行為取消権と同様の要件の下で,残存債権者が分割先の承継会社等に債務の履行請求を可能とする制度の創設を検討しています。
 ただ,その要件・適用範囲については多数の論点(例えば,「害する」の意味〔対価適正,配当率減少等を含むか〕,民424等他の法律構成との関係,責任の限度,期間制限,承継会社等の善意,残存債権者への通知義務とその懈怠の効果…)があります。
 そのため,現在(平成23年12月14日から同24年1月31日まで)パブリックコメントに付され上記見直し点をまとめた「会社法制の見直しに関する中間試案」に対する意見が公募されており,この結果も踏まえて引き続き法制審議会で議論・検討されますが,意見がまとまり制度導入できるか予断を許しません。

 今後とも,会社法の見直し議論には目が離せない状況です。