M&A仲介契約と利益相反 – 久保井総合法律事務所

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2015年04月22日
コラム

弁護士:上田 純

M&A仲介契約と利益相反

近年,大企業だけでなく,後継者問題等を背景に,中小企業経営者にとってもM&Aが,身近なものになっているようで,特に,M&Aの対象企業が中小企業である案件に接することが増えてきています。
 その中で最近気になるのが,仲介業者がM&Aの売主と買主の双方と仲介契約やアドバイザリー契約を締結しているケースです。
 これらの仲介契約書類を見ると,多くの場合,仲介業者の業務内容として,アドバイザリー業務―顧客の利益を満たすように助言等を行うこと―が明記されています。しかしながら,売主と買主の双方の利益を同時に満たすことは事実上不可能と思われます。即ち,通常,売主はできるだけ高く売却したいし,買主はできるだけ安く購入したいのですから,その構造上,売主と買主の利益は対立します。
 また,仲介契約の報酬の大部分は成約報酬であることから,顧客と仲介業者との利益相反の問題も存在します。例えば,売主側に有利な価格算定方法Aと買主側に有利な価格算定方法Bがあった場合,売主側のアドバイザーとしてはまずはAを助言すべきですし,買主側のアドバイザーとしてはまずはBを助言すべきです。しかし,そうなると条件が合わず成約に至らない可能性が高くなると仲介業者が考え,買主側にBを助言しない(Aのみ説明する)可能性もあります。そして,買主側がBを知らない限り,買主側はこのような不利益を自覚しないままM&Aを実行してしまう可能性が大です。加えて,買主側顧客と仲介業者との間では,買収金額に応じて報酬額が決まる報酬体系(レーマン方式といわれます)を採用している場合,買収金額が高ければ高いほど仲介業者の報酬額が高くなるため,この点においても,利益相反の問題が生じます(この問題を避けるためには,少なくとも買主側としては,仲介業者の報酬を固定額にすべきでしょう。)。
 仲介業者によっては,売主と買主の双方の利益が最大となるよう調整する,友好的M&Aを実現する等とうたってアピールしているようですが,いかに友好的であっても,売却価格等の条件面で利益相反は不可避ですから,その意味での売主・買主の双方の利益の最大化は不可能と思われます。
 したがって,M&Aの当事者としては,そのアドバイザリー業務を相手方と同一の業者に依頼すべきではなく,仮に,仲介の経緯等からそれが避けられない場合には,別途,(顧問)弁護士や(顧問)会計士・税理士の専門家に依頼し,専ら当該当事者のためだけに,その当事者の利益の最大化のための助言を得るべきと思われますし,それが,その当事者企業の役員の善管注意義務に沿うものと考えられます。
 なお,特に買主側となった場合,財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスを通常その負担で行うことになりますが,そのデューデリジェンスにつき,仲介業者の指定又は紹介する会計士・弁護士等ではなく,(デューデリジェンス業務を取り扱わないような事情がない限り)顧問会計士・税理士及び顧問弁護士に依頼することが,M&A実行後の円滑な財務・法務面の助言を得るために最適と思われます。
 ちなみに,大手M&A仲介業者の仲介契約書を見ても,顧客の要望に沿った内容になっていない場合が多く,その対応のためにも,仲介契約書の検討・作成段階から,顧問弁護士の関与を求めるべきと思われます。