債権譲渡担保と第三者対抗要件 – 久保井総合法律事務所

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2016年04月08日
コラム

弁護士:上田 純

債権譲渡担保と第三者対抗要件

取引先の信用補完のため,保証(人的担保)と並んで担保(物的担保)は非常に大きな役割を果たしてきました。金融機関においては,近年,金融当局が各金融機関に対し,特に中小企業たる取引先に関し,担保・保証(特に第三者保証)に過度に依存しない融資への取組みを求めると共に,ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的な活用を推進している中,物的担保の中でも特に売掛金等の債権担保の重要性が相対的に高まっています。また,BtoB取引においても,取引先の預貯金,売掛金,敷金等の債権を担保として取得(提供)するケースが多数存在します。

 さらに,債権譲渡担保は債権譲渡の規律に従うところ,近時の民法(債権法)改正の法制審議会の議論において,当初,債権譲渡の対抗要件を現在の①(第三債務者〔当該債権の債務者のこと〕への)通知,②(第三債務者の)承諾,または③登記という3通りから,登記に一本化する改正提案がなされ話題になったことからも関心が高まりました。この登記一本化の提案については,法律実務家や経済界から強い反対があったため,結果的には改正されず,改正民法施行後も,引き続き①通知,②承諾,または③登記を選択することができます。

 このように,近年,様々な面で債権譲渡担保に関する話題が提供されているところです。

 私共も,この債権譲渡担保に関し,色々な場面で関わることが多いのですが,最近,複数の案件で気になったことがありました。

 それは,債権譲渡担保において欠かすことのできない第三者対抗要件の具備を失念しているケースが少なからず存在するということです。

 ご存知の通り,債権譲渡(担保)の対抗要件には,第三債務者に対し自分が債権者であると主張できる要件である債務者対抗要件と,当該債権の二重譲受人や差押債権者,破産管財人等の第三者に対し自分が債権者であると主張できる要件である第三者対抗要件があります。そして,通知又は承諾方式の場合,債務者対抗要件としては単なる通知又は承諾でよいのですが,第三者対抗要件としては確定日付ある証書による通知又は承諾が必要とされています(民法467条)。

 ところが,この承諾方式において,確定日付の取得を失念しているケースが少なからずあるようです。おそらく,取引債権から譲渡担保設定契約書と共に,第三債務者の押印のある承諾書を取得することで安心してしまい,それ以上に,当該承諾書に確定日付を取得することを失念してしまうのだろうと思われます。

 しかしながら,確定日付がなければ,第三者対抗要件が具備されないということになりますので,当該債権が二重に譲渡(第三者対抗要件も具備)されたり,差押を受ければ,その二重譲受人や差押債権者が優先してしまい,また,当該債権の債権者(取引先)が破産した場合には破産管財人が優先してしまい,当該債権からの回収は困難となり,債権譲渡担保を取得した意味がなくなってしまいますので,確定日付の取得を失念しないよう,チェック体制を高める等の対応が必要と思われます。勿論,既存の債権譲渡担保の第三者対抗要件の具備状況のチェックも重要と思われます。

 なお,登記については,登記費用がかかるため,承諾方式に比べると利用は少ないように思われますが,登記をしていれば,第三者対抗要件は当然に具備されます。ただし,登記だけでは債務者対抗要件は具備できず,実際に当該債権譲渡担保を実行する際に,債務者に対し,登記事項証明書を送付して通知する必要がありますので注意が必要です。