久保井L⇔O通信23.1.5-1.30(価格転嫁と優越的地位濫用、ステマ規制の報告書、脱炭素の企業間連携と独禁法の公取指針案、ストーカー規制法、30年ぶりの労働協約の地域的拡張適用) – 久保井総合法律事務所

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トピックス/コラム詳細

2023年02月01日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信23.1.5-1.30(価格転嫁と優越的地位濫用、ステマ規制の報告書、脱炭素の企業間連携と独禁法の公取指針案、ストーカー規制法、30年ぶりの労働協約の地域的拡張適用)

  • 【価格転嫁と優越的地位の濫用】1.5

新年あけましておめでとうございます。本年も不定期になりますが、気になるニュースを「法律的にちょっとだけ掘り下げた配信」を心がけたいと思いますので、よろしくお願いします。

 

(1)さて、昨年の後半あたりから、価格転嫁を巡る問題について法律相談を受けることが増えてきた印象があります。急激な円安、物流コストの上昇、原材料や燃料費の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻などが様々な要因があります。この点に関連して、年末年始にかけて、いくつか気になるニュースがありました。

 

(2)1つは、公正取引委員会が、2022.12.27日に、「下請け企業などとの間で原燃料費や人件費といったコスト上昇分を取引価格に反映する協議をしなかったとして佐川急便や全国農業協同組合連合会(JA全農)、デンソーなど13社・団体の名前を公表した。こうした行為は独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがある。」(日経新聞2022.12.28)という記事です。

 

もう1つは、経済産業省が、「中小企業の価格転嫁について、業種ごとの調査結果をまとめた。回答を得た約1万5000社では、トラック運送業や通信業で転嫁の遅れが目立った。業種ごとの実態を公表し、取り組みが進まない業界を中心に価格交渉に対する意識変化を促す。」との記事です(日経新聞2023.1.3)。

 

(3)このうち、公正取引委員会の公表内容は下記のURLです。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/dec/221227_kinkyuchosakekka.html

 

(4)この点、公正取引委員会は、2022.2.16、「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&Aに、労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストの上昇分を取引価格に反映せず、従来どおりに取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあり、下記の①及び②の2つの行為がこれに該当することを明確化しています。

 

① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと

 

(5)公正取引委員会は、個別名の公表を行った理由について、「個別調査の結果、受注者からの値上げ要請の有無にかかわらず、取引価格が据え置かれており、事業活動への影響が大きい取引先として受注者から多く名前が挙がった発注者であって、かつ、多数の取引先について独占禁止法Q&Aの①に該当する行為が確認された事業者については、価格転嫁の円滑な推進を強く後押しする観点から、取引当事者に価格転嫁のための積極的な協議を促すとともに、受注者にとっての協議を求める機会の拡大につながる有益な情報であること等を踏まえ、独占禁止法第43条の規定に基づき、その事業者名を公表することとした」と説明しています。

 

(6)ちなみに、上記(5)の公表の根拠となった独占禁止法43条は、下記の条文です。

 

43条(必要な事項の公表)

「公正取引委員会は、この法律の適正な運用を図るため、事業者の秘密を除いて、必要な事項を一般に公表することができる。」

 

(7)2023年も引き続き、この価格転嫁を巡る問題(価格転嫁を求める側からも、求められる側からも)が大きな課題になりそうです。

 

  1. 【ステマ規制の報告書】1.11

消費者庁のステルスマーケティングに関する検討会が、2022.12.28、報告書を提出しました。下記のURLです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_005/

 

(2)ステルスマーケティングとは、「広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿する」ような場合を言います。以前にも芸能人ユーチューバーが商品を紹介した動画を公開したところ、実は裏で商品を販売する業者からお金をもらっていた、ということが問題になりましたね。今回の報告書では、消費者のSNS利用率の向上などの現状のもと、ステルスマーケティングが広がっている実態調査の結果や、諸外国での規制状況などを紹介しています。そのうえで、ステルスマーケティングに対する景品表示法による規制の必要性を述べ、今後、景品表示法5条3号の告示に新たに指定することが妥当、としています。5条1号がいわゆる優良誤認の規制、2号が有利誤認の規制ですが、ステルスマーケティングはこのいずれにもあたらないので、3号で規制しようということのようです。今後の広告戦略を考えるにあたって、ステルスマーケティングへの目配りが一層重要になりそうです。

 

景品表示法

(不当な表示の禁止)

第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

 

  1. 【脱炭素の企業間連携と独禁法の公取指針案】1.16

さて、2023.1.14の日経新聞に、「公正取引委員会は13日、脱炭素に向けた企業間の連携について独占禁止法上の注意点をまとめた指針案を公表した。カルテルなどに該当しないか判断しやすくし、萎縮せずに協業できる環境を整える。調達コストを下げるため原料・設備を共同購入することは問題ない場合が多いものの、販売価格を調整したり他社の参加を阻んだりする場合は抵触する恐れがあると例示した。」との記事がありました。

 

(2)公取の指針案については現在パブコメ中です。下記の公取のHPです。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/jan/230113_publiccomment.html

 

(3)今回の指針案をざっとみたところ、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い」としつつ、多くの具体的なケースをあげて、①独禁法上問題とならない行為、②独禁法上問題となる行為、③独禁法上問題とならないよう留意を要する行為、を解説しています。

 

(4)例えば、脱炭素に向けて事業者が「共同で」様々な取組みをしていくことが有効なケースが考えられますが、指針案では、

 

①独禁法上問題とならない行為として、つぎのようなものをあげています。

  • 業界として行う啓発活動

「事業者団体Xは、グリーン社会の実現に向けた個々の事業者の取組を業界内で一層促進するために啓蒙活動を実施することとした。実施する際は、重要な競争手段である事項に影響を及ぼさない範囲で行うこととし、新たな事業者の参入を制限したり、既存の事業者を排除したりすることとならないようにするとともに、当該啓蒙活動が個々の事業者の事業活動を拘束しない範囲で行われるようにした。」

  • 法令上の義務の遵守

「商品Aの製造販売業者により構成される事業者団体Xは、法令上、商品Aの製造販売業者による達成が義務付けられるリサイクル率を、会員事業者が達成しなければならない目標値として定めた。その上で、当該リサイクル率を達成する観点から、Xは会員各社の達成率を会員の同意を得て公表することとした。」

 

②他方で、独禁法上問題となる行為として、次のようなものをあげています。

  • 技術開発の制限

「商品Aの製造販売業者X、Y及びZは、商品Aの需要者から温室効果ガス削減のための技術開発を強く要請されている。しかし、新技術の開発競争が激しくなることを避けるため、X、Y及びZは、自社において行っている研究開発の状況について情報交換を行うとともに、今後需要者に対して提案する商品に用いる新技術の内容を制限した。」

  • 生産設備の共同廃棄

「商品Aの製造販売業者X、Y及びZは、商品Aの製造過程で排出される温室効果ガスの排出量削減のため、既存の生産設備を温室効果ガス排出量が少ない新技術を用いる新たな生産設備へ転換することをそれぞれ検討していた。そこで、X、Y及びZは、業界としての足並みを揃えるため、それぞれ独自に判断することなく、相互に連絡を取り合い、既存の生産設備を廃棄する時期や廃棄する生産設備の対象を決定した。」

 

(5)上記の例だけを見ても、理屈では分かるものの実際の場面に落とし込んで考えると、かなり微妙なケースが出てきそうです。指針案では、自主基準の設定、共同研究開発、共同購入、データ共有、取引先事業者の事業活動に対する制限・取引先の選択に係る行為、優越的地位の濫用などについて、いろいろ微妙なケースをあげて考え方を示しています。

 

(6)指針案については、パブコメを経て最終決定されますが、現在の企業にとって脱炭素は最も重要な経営課題の1つであることは間違いありません。そして、取組みを進めるにあたっては、今後、業界団体などを含め事業者が共同歩調をとる必要も生じると思われます。その際、今回の指針も頭に置きながら進める必要がありそうです。

 

  1. 【ストーカー規制法】1.23

さて、福岡県でストーカー規制法に基づく禁止命令が出されている中での殺人、という痛ましい事件が起こりました。

 

この点、ストーカー規制法には次のような警告や禁止命令に関する制度が用意されています。

 

(つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして不安を覚えさせることの禁止)

第三条 何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。

 

(警告)

第四条 警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされたとして当該つきまとい等又は位置情報無承諾取得等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において、当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。

(以下略)

 

(禁止命令等)

第五条 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、第三条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、その相手方の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。

一 更に反復して当該行為をしてはならないこと。

二 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項

(以下略)

 

(2)また同法には次のような罰則もあります。

(罰則)

第十八条 ストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

第十九条 禁止命令等(第五条第一項第一号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。

2 前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする。

 

(3)弁護士業務のなかでも、たまにこのようなつきまといの相談を受けたりすることがあり、警察への相談、弁護士との連携などで対応をしますが、24時間対応はなかなか難しく、このようなことも起こってしまいます。「文明の利器」をより活用したさらなる対策の検討も必要に感じました。

 

  1. 【30年ぶりの労働協約の地域的拡張適用】1.30

さて、2023.1.23の朝日新聞に、「一部の会社と労働組合が決めた労働条件を、同じ地域の同じような働き手に広げる労働協約の「地域的拡張適用」が約30年ぶりに認められ、「正社員の年間休日数を111日以上にする」という条件が茨城県内の大型家電量販店のすべてに広がりました。」との記事が掲載されていました。

 

(2)この点、労働協約の「地域的拡張適用」についての厚生労働省の解説が、同省HPに掲載されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/roudoukumiai/index_00004.html

 

(3)また、上記(1)の記事にある今回の具体的ケースについても、同省HPに掲載されていました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/roudoukumiai/index_00005.html

 

(4)根拠となる労働組合法18条は次のとおりです。

労働組合法

(地域的の一般的拘束力)

第十八条 一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は都道府県知事は、当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約(第二項の規定により修正があつたものを含む。)の適用を受けるべきことの決定をすることができる。

2 労働委員会は、前項の決議をする場合において、当該労働協約に不適当な部分があると認めたときは、これを修正することができる。

3 第一項の決定は、公告によつてする。

 

(5)上記(1)の朝日新聞の記事には、今回、約30年ぶりに地域的拡張適用に至った背景や、年間休日数以外の労働条件へ広がる可能性、他地域へも同様の拡張適用が広がる可能性などが書かれていました。労働基準法で義務付けられている以上の休日を社員にどの程度認めるかは各社の自由競争に委ねられるもの、というのが、これまでの一般的な考え方だったように思いますが、働き方改革が重要課題となるなか、新たな取組みとして注目されるかもしれません。