久保井L⇔O通信22.9.5-9.26(マンション建替え要件緩和方向,デジタル給与,最高裁パ ワハラ免職処分適法判決,ビジネスと人権ガイドライン①) – 久保井総合法律事務所

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トピックス/コラム詳細

2022年10月01日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信22.9.5-9.26(マンション建替え要件緩和方向,デジタル給与,最高裁パ ワハラ免職処分適法判決,ビジネスと人権ガイドライン①)

222. 【マンション建替え要件緩和の方向】22.9.5

さて,22.9.3の日経新聞などで,葉梨康弘法務大臣が,9月2日の記者会見で,分譲マンションを建て替える際の要件の緩和について9月12日に法制審議会に諮問すると発表した,とのことです。

 

(2)現在は,分譲マンションの建て替えを行うには,区分所有法62条1項で,所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成が必要とされています。

 

(建替え決議)

第六十二条 集会においては,区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で,建物を取り壊し,かつ,当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下 「建替え決議」という。)をすることができる。

 

(3)報道によると,今後老朽化マンションが急速に増え(国土交通省は2021年末におよそ116万戸だった築40年以上の分譲マンションが41年末に425万戸程度に増えると試算とのこと),高齢化や相続により所有者が不明になるケースが増え,老朽化マンションの防災対策などが滞る懸念に対応する,とのことです。

 

(4)改正の方向としては,建て替えに必要な多数決割合の引き下げ(4分の3や 3分の2に下げる意見があるとのこと)や,耐震性が不足した際など一定の条件のもとで要件を緩和,現在は所有者全員の同意で成立する建物や敷地の売却,取り壊しを多数決に切り替えることも視野に入れる,とありました。

 

(5)私は平成6年4月に弁護士登録をしましたが,そのすぐ後の平成7年1月17日に阪神淡路大震災があり,多くのマンションが被災し,マンションの建替えが大きな課題になりました。当時の区分所有法では,建替えには5分の4の多数決に加え,大規模修繕を行うには「過分の費用」が掛かりすぎる,という要件も必要とされており,その定義が厳しく曖昧なこともあって,訴訟も多く起こされました。当時所属していた事務所で何件か担当していましたが,その後,「過分の費用」の要件が削除されたり,被災マンションの特例法ができたりなど,徐々に進んできました。今回の改正もこれら大きな流れの中の1つ,と感じます。

 

 

 

223. 【デジタル給与導入へ】22.9.14

さて,今朝(2022.9.14)の朝日新聞に,「企業が賃金の一部をキャッシュレス決済口座などに振り込む「デジタル給与払い」が,来年度にも可能になる見通しとなった。デジタル口座の残高の上限は100万円で,それを超える分は従来通り銀行口座などに振り込む。厚生労働省の審議会が13日に大筋で合意した。年度内に必要な省令改正が行われる予定だ。」との報道がされていました。狙いとしては,労働者側は決済アプリの口座に直接給与が入り,日常の買い物に使えるようになり,世界に遅れている日本のキャッシュレス化を進める契機としたい,ということのようです。

 

(2)この点,労働基準法24条1項の賃金の通貨・直接・全額払いの原則の例外を広げることですが,「そんなん,嫌や」という労働者に対して強制にならないように,きちんと同意を取ることや,資金移動事業者が破綻した場合の保護策も合わせて決められるようです。

 

(3)この改正は,日本社会にとって大きなインパクトがある改正になりそうです。弁護士業務的にも,金銭給付の判決を取って差押えを検討する際,従来のように預貯金口座だけを対象に考えていては難しい時代になるかもしれません。

 

【労働基準法】

(賃金の支払)

第二十四条 賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。ただし,法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては,通貨以外のもので支払い,また,法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては,賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

 

 

224. 【最高裁パワハラ免職処分適法判決】22.9.20

さて,最高裁第三小法廷は,2022.9.13,部下等にパワハラを繰り返し行った,として免職処分を受けた山口県長門市の消防職員の40代の男性が,「免職処分は重すぎる」,として処分の取消しを求めた訴訟で,原審の広島高裁判決を破棄し,男性職員の請求を棄却する判決を言い渡しました(免職は適法と判断)。 

【概要】 

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91402 

【全文】 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/402/091402_hanrei.pdf 

 

(2)今回の判決では,「免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果となることを考えれば,この場合における判断については,特に厳密,慎重であることが要求されると解すべき」と一般論を延べた上で,男性職員のパワハラが,「5年を超えて繰り返され,約80件に上るもので…対象となった消防職員も,約30人と多数であるばかりか…消防職員全体の人数の半数近くを占める。そして,その内容は,現に刑事罰を科されたもの(※筆者注:暴行罪による罰金20 万の略式命令を受けた)ものを含む暴行,暴言,極めて卑猥な言動,プライバ シーを侵害した上に相手を不安に陥れる言動等,多岐にわたる。」として,「こうした長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき,公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。また,本件各行為の頻度等も考慮すると,上記性格を簡単に矯正することはできず,指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることにも不合理な点は見当たらない」としました。 

 

(3)【全文】では男性職員の具体的なパワハラ行為が認定されていますので,興味がおありの方は目を通して頂ければ,と思います。一読した印象ではかなり酷い内容ですので,「これは免職もやむを得ないな」,と感じますが,一審,控訴審では,免職は重すぎると判断しており,これを最高裁が破棄したことは,事例判断ではありますが重要な先例と思います。【bcc通信214】(22.6.20/懲戒業 務停止期間中の2度目の懲戒の最高裁判決)に続いて,最高裁がハラスメントに対して厳しい姿勢を示したものと言えそうです。

 

 

 

225. 【ビジネスと人権ガイドライン①】22.9.26

さて,最近新聞でも,「ビジネスと人権」「人権DD(デュー・デリジェンス)」という用語を良く目にするようになりましたが,2022.9.13,日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議)を策定し公表しました(下記のURL)。

https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html

 

(2)今回のガイドラインは,①1948年の国連総会で採択された世界人権宣言⇒②2011年の「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護,尊重及び救済」枠組み実施のために」(=国連指導原則)の国連人権理事会における全会一致で支持⇒③2020年,日本政府が国連指導原則を踏まえ「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定・公表,という流れのなかで策定されたものです。

 

(3)今回のガイドラインは,法的拘束力を有するものではないものの,企業の規模,業種等にかかわらず,日本で事業活動を行う全ての企業(個人事業主を含む)が尊重すべきもの,とされています(ガイドライン6p)。

 

(4)今後,このガイドラインは企業が事業活動を行っていくにあたって重要なものとなってくると思われます(本日9.・26の日経新聞の社説でも取り上げられていました)。そこで,このbccでも定期的にガイドラインの内容をご紹介していきたいと思います。