久保井L⇔O通信21.7.20-7.28(監査役責任の最高裁判決,bcc通信1周年,オリンピック開催都市契約,京都芸術大学不正競争防止法事件の和解) – 久保井総合法律事務所

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トピックス/コラム詳細

2021年09月15日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信21.7.20-7.28(監査役責任の最高裁判決,bcc通信1周年,オリンピック開催都市契約,京都芸術大学不正競争防止法事件の和解)

159. 【監査役の責任ついての最高裁判決】21.7.20
さて、今朝の日経新聞(21.7.20)によると、「社員の横領を見抜けなかった監査役の賠償責任が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は19日、監査役は「会計帳簿の基礎資料を確認すべき場合がある」と判断した。監査役の責任を否定した二審・東京高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。」とのことです。

最高裁のHPによると、判示事項として、「会計限定監査役(※本件では公開会社ではない株式会社であって、会計監査人を置かないもの)である。被は、計算書類及びその附属明細書の監査を行うに当たり、当該計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない」とあります。

【最高裁HP】
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/486/090486_hanrei.pdf

HPの判決全文によると、当該会計限定監査役(被上告人)は、上記各期の監査において、本件従業員から提出された残高証明書が偽造されたものであることに気付かないまま、これと会計帳簿とを照合し、上記計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認するなどし、その上で、被上告人は、上記各期の監査報告において、上記計算書類等が上告人の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示している旨の意見を表明していたようです。

原審は、「会計限定監査役は、会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり、計算書類等の監査において、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば、任務を怠ったとはいえない。」として責任を否定していました。

これに対し最高裁は、「監査役は、会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため、会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして、会計限定監査役にも、 取締役等に対して会計に関する報告を求め、会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項、5項)などに照らせば、以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。そうすると、会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない。」としました。

そして、「被上告人が任務を怠ったと認められるか否かについては、上告人における本件口座に係る預金の重要性の程度、その管理状況等の諸事情に照らして被上告人が適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり、また、任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要があるから、本件を原審に差し戻す」としています。

中小企業のほとんどが、実態としては今回のような監査役の執務状況にあると考えられ、かなり実務に影響がありそうです。

 

160. 【bcc通信1周年】21.7.20
さて、昨年2020.7.20、コロナをきっかけに始めたbcc通信、ちょうど1周年です。最近配信の頻度が、大阪弁護士会副会長職で朝から事務所に来ていない日も多いため下がっていますが、今後もボチボチやっていきます。

◎なお、もし、これまで1年間の配信内容を統合したワードファイル(98ペー ジ)をご所望の方(そんなもの好きな人はいないかもしれませんが)がおられれば、個別メール頂ければ、お送りします。私は過去の記事を検索したりするときに使っています。

では、今後ともよろしくお願いします。

 

161. 【オリンピック開催都市契約】21.7.26
オリンピックが始まりました。始まってしまうと、ついついテレビで見てしまうのが人情で、応援にも力が入ってしまいます。

この点、先日の日経新聞(21.7.22)に、「およそ100年前の1920年にベルギーで行われたアントワープ五輪も、スペイン風邪のパンデミック(世界的大流行)を超えての開催だった…アントワープ大会を取り巻く状況は、今回の東京よりはるかに深刻だった。14年から18年まで続いた大戦(※筆者注:第一世界大戦)はヨーロッパが戦場となって約1800万人が犠牲になり、スペイン風邪では20年の収束までに4000万人以上が亡くなったとされる」と紹介されていました。始まった以上、日本だけでなく世界のアスリートの健闘を祈りつつ、個人的にはワクチン未接種でもあり、引き続き感染予防に努めたいと思います。

さて、先日、弁護士会でスポーツ法を取扱っている弁護士のお話しを聴く機会が有りました。その際、オリンピックの開催都市契約の内容の不平等性について紹介がありました。下記、開催都市契約の大会中止に関連する条項です。その弁護士によると、この契約内容は東京大会に特別なことではなく、どの大会でも同じような内容のようです。

【オリンピック開催都市契約の抜粋】
●大会運営の委任
IOC が、JOC、東京都、組織委員会に対し、大会運営等を委任する(開催都市契約1条)。

●連帯責任、IOC による訴訟の可能性
JOC、東京都、組織委員会は、本大会の運営等につき、連帯して責任を負う(4 条)。
IOC は、JOC、東京都、組織委員会に対し、裁量により訴訟を起こすことができる(4 条)。

●大会中止(解除)の権限
IOC のみが中止権限を有する(以下は IOC による契約解除が認められる場合)66 条 a)
ⅰ) 戦争状態、内乱、ボイコット…または IOC が単独の裁量で、本大会参加者
の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信ずるに足る合理的な根拠
がある場合
ⅲ) 本大会が 2020 年中に開催されない場合

●東京都、JOC、組織委員会は、損害賠償請求権等を放棄する(66 条)

●日本側の事情による中止
東京都、JOC、組織委員会等、日本側の事情で中止した場合、IOC やテレビ局等に損害が発生しないように補償する義務を負う(9 条 a))

上記の日本側の事情による中止の場合、約4600億円ともいわれる放映権料、IOC が締結しているスポンサー契約上の返金義務・損害賠償義務等と、東京都側が締 結している各スポンサー契約上の賠償責任等が発生する、という事情があるよう です。

 

162. 【京都芸術大学不正競争防止事件の和解】21.7.28
さて、2020.8.28に配信した京都芸術大学の不正競争防止法事件が和解をした、 と新聞報道されていました。

「京都芸術大(京都市左京区)の名称は類似表示を禁じる不正競争防止法に違反するとして、同大学を運営する学校法人瓜生山学園に対し、京都市立芸術大(西京区)が校名の使用差し止めを求めている訴訟の控訴審で、市立芸大と同学園が和解したことが20日、関係者への取材で分かった。関係者によると、和解内容では「京都芸術大学」の使用を同学園に認める一方、略称の「京都芸大」と「京芸」を京都芸術大側は使わないことで合意したという。」(京都新聞21.7.21)

和解の経緯まで分かりませんが、結論的には一審判決と同様、京都芸術大学の名称の使用は認める、という和解内容のようです。