久保井L⇔O通信22.6.6-6.27(全銀協の不測自体預金引き出しの考え方,おとり広告,懲戒処分期間中の2度目の懲戒【最高裁判決】,ツイッター投稿削除最高裁判決→グーグル検索との違い) – 久保井総合法律事務所

トピックス/コラム一覧

トピックス/コラム一覧

トップページ   >   トピックス/コラム   >   久保井L⇔O通信22.6.6-6.27(全銀協の不測自体預金引き出しの考え方,おとり広告,懲戒処分期間中の2度目の懲戒【最高裁判決】,ツイッター投稿削除最高裁判決→グーグル検索との違い)

トピックス/コラム詳細

2022年07月01日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信22.6.6-6.27(全銀協の不測自体預金引き出しの考え方,おとり広告,懲戒処分期間中の2度目の懲戒【最高裁判決】,ツイッター投稿削除最高裁判決→グーグル検索との違い)

212. 【全銀協の不測の事態における預金の払出しに関する考え方】22.6.6
さて,2021.2.19のbcc通信113で,認知症などで高齢者が預金を自ら引き出せなくなり,代わりに親族らが求めた際に銀行はどうするかについて,全国銀行協会が,「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関との連携強化に関する考え方」をまとめ公表した,ということをご紹介しました(下記,全銀協のURLです)。
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/

 

(2)この点,先日,新聞報道で,全銀協が新たに,預金者に突然の病気や事故等の不測の事態が生じた場合に,家族など代理の方から預金を払い出したいとの依頼が寄せられた際の参考となるよう,「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」を取りまとめ公表した,ということを知りました(下記,全銀協のURLです)。
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2022/n051602/

 

(3)内容を見ると,基本的には,(1)の認知症などの高齢者の考え方と同じような方向性のようです。実務の参考になりそうですので,ご紹介しました。

 

 

 

213. 【おとり広告】22.6.13
さて,消費者庁は,大手回転寿司チェーンを運営する事業会社が,「濃厚うに包み」や「豪華かにづくし」という商品を売り出すキャンペーンをテレビコ マーシャルなどで宣伝していた期間中,実際には店舗の9割超で提供されない時期があった,これは,実際には購入できない商品を購入できるかのように表示した「おとり広告」に当たる,と判断して再発防止を求める措置命令を出しました。

 

(2)今回,消費者庁が措置命令を出した根拠となる法律は,「不当景品類及び不当表示防止法」(いわゆる,景品表示法)です。景品表示法には,次の条文があります。

(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は,自己の供給する商品又は役務の取引について,次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質,規格その他の内容について,一般消費者に対し,実際のものよりも著しく優良であると示し,又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて,不当に顧客を誘引し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について,実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて,不当に顧客を誘引し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか,商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて,不当に顧客を誘引し,一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

 

(3)上記五条の一号が,優良誤認,二号が,有利誤認,と呼ばれるもので,これに加えて三号で,内閣総理大臣が他の類型を指定する,とされています。今回の「おとり広告」は,この三号を受けて,「おとり広告に関する表示」(平成5 年公正取引委員会告示第17号)で指定されています。下記,おとり広告に関する消費者庁HPのURLです。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/case_002/

 

 

 

 

214. 【懲戒期間中の2度目の懲戒の最高裁判決】22.6.20
(1)さて,この6月1日から改正公益通報者保護法が施行されました。従業員 300人を超える企業には,公益通報対応業務を担う「従事者」の指定などの体制整備が義務化されました。企業の体制整備にあたって重要な項目の1つとして,★ 通報者や調査への協力した人を詮索したり,報復したりすることが許されない,ということを,きちんと従業員に周知徹底すること,もしそのようなことがあれば,そういった行為をした従業員に対して適切な懲戒処分をすること,が挙げられています。

 

(2)この点について,参考になる最高裁判決が2022.6.14に出されました。新聞などでも報道されていましたのでご覧になった方もいると思いますが,簡単にご紹介しておきます。
【最高裁HPのURL】
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91232

 

(3)この事案では,富山県氷見市の消防職員だった被上告人Aが,任命権者であった氷見市消防長から,上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2ヵ月の懲戒処分(第1処分)を受け,さらに,その停職期間中に正当な理由なく上記暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由とする停職6ヵ月の懲戒処分(第2処分)を受けました。これについて,被上告人Aが,上告人氷見市を相手に,第1処分及び第2処分の各取消しと,国家賠償法に基づく損害賠償を求めました。

 

(4)特に今回注目される第2処分の対象とされた行為ですが,次の2つが認定されています。

①被上告人Aが,上司Eに対する暴行及び暴言事件について事情を知っていた同僚Hに対して,電話で,同僚Hが訓練において不適切に電動式心肺人工蘇生器を作動させた事案につき,被上告人Aにおいて同僚Hに係る調査で処分を軽くするための行動をとることを提案した上で,同僚Hが第1処分に係る調査で事実関係を話したのかについて問い詰め,同僚Hが裏切るような行為をしたため第1処分がされたのであれば,許されないなどと述べたこと

②上記①とは別の暴行事件の被害者である部下Cに対して,数回にわたって電話で,部下Cが担当していた職務である消防職員の給与計算の時間外勤務手当の処理に問題があることに言及した上で,第1処分に対する審査請求手続において部下Cに対する暴行が争点となること等について話しをし,処分をより軽くする目的で部下Cと面会する約束をし,その後,被上告人Aが部下Cとの間でメールのやり取りをしたところ,被上告人Aが送信したメールには,被上告人Aの運転する自動車に部下Cが同乗して氷見市外の面会場所に行くことを提案する旨の記載や,「この不服に邪魔が入りもしうまくいかなかったら辞表出して消防長を刑事告訴する それに荷担したものも含むつもり リークしたものも同罪やろ」との 記載があった,その後も,「お前も荷担してるとは思わなかったわ」との記載のあるメールを送ったこと

 

(5)この点について,実は★原審の名古屋高等裁判所金沢支部の判決では,第2処分の対象となる非違行為はそれなりに悪質なものであり,被上告人Aは第1処分を受けても反省していないとみられるが,反社会的な違法行為とまで評価することが困難なものである上,第1処分に対する審査請求手続のためのものであって第1処分の対象となる非違行為である暴行等とは異なる面があり,同種の行為が反復される危険性を過度に重視することは相当ではない,そうすると,第1処分の停職期間を大きく上回り,かつ,最長の期間である6ヵ月の停職とした 第2処分は,重きに失するものであって社会通念上著しく妥当性を欠いており,消防長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法なものであ る,としていました。

 

(6)これに対し★最高裁は,上記(4)で認定された働き掛けは,「いずれも,懲戒の制度の適正な運用を妨げ,審査請求手続の公正を害する行為というほかなく,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより,その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない。また,上記各働き掛けは,上司及び部下に対する暴行等を背景としたものとして,第1処分の対象となった非違行為と同質性があるということができる。加えて,上記働き掛けが第1処分の停職期間中にされたものであり,被上告人Aが上記非違行為について何ら反省していないことがうかがわれることにも照らせば,被上告人が業務に復帰した後に,上記非違行為と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえない。以上の事情を総合考慮すると,停職6月という第2処分の量定をした消防長の判断は,懲戒の種類についてはもとより,停職期間の長さについても社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない」として,原判決を破棄し差し戻しました。

 

(7)公益通報にしても,懲戒処分にしても,通報や処分があった後の報復措置などを見過ごしていると制度自体が崩壊しかねません。その意味で今回,最高裁が厳正な判断をくだしたことは実務上も大きな意義があるように思います。

 

 

 

215. 【最高裁判決ツイッター削除,グーグル検索との違い】22.6.27
さて,新聞などで報道されていますように,最高裁第2小法廷は2022.6.24,旅館の女性用浴場の脱衣場に侵入した建造物侵入罪の逮捕歴に関するツイッター投稿の削除が認められるかどうかが争われた訴訟で,原告の男性の請求を認め,米ツイッター社に投稿の削除を命じる判決をくだしました。削除を認めなかった二審・東京高裁判決を破棄したものです。

判決文は下記の裁判所のHPに掲載されています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91265

 

(2)この点,最高裁は過去に,児童買春の逮捕歴のグーグルの検索結果の削除を求めた事件では削除を認めませんでした(第3小法廷の平成29年1月31日決定)。

この時の決定では,「検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。」としたうえで,「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」と判断して,削除を認めなかったものです。

 

(3)今回のツイッター投稿に関する原審の東京高裁の判決でも,上記(2)のグーグルの検索結果削除請求事件の決定の基準をもとに,「本件各ツイートの削除を求めることができるのは…本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量した結果,…本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解するのが相当」として,投稿の削除を認めていませんでした。

 

(4)これに対し,今回の最高裁判決は,「本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には,本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。原審は…本件各ツイートの削除を求めることができるのは,上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが,被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても,そのように解することはできない。」としました。

 

(5)このあたり,色々見方はあると思いますが,グーグルの検索機能については,「現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」,だから簡単には削除は認められない,でもツイッターは,「利用者に対し,情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしている」ものの,検索機能に比べると情報流通の基盤としての役割は大きくないので,プライバシーなどを重視して,比較的緩やかな基準で削除を認める,ということかな,と感じます。