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2014年10月29日
債権回収・保全     会社法関係

弁護士 : 佐藤 高志

改正会社法の濫用的会社分割への対応について ~民法(債権関係)改正を踏まえて~

 会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)が平成26年6月20日に参院で可決し,同月27日に公布されました(以下,同法による改正後の会社法を「改正会社法」といいます。)。施行日は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされており,平成27年5月1日頃になりそうだということです。本コラムでは,これまでにいわゆる「濫用的会社分割」の問題について2回にわたって取り上げてきましたが(拙著「会社法改正―濫用的会社分割への対応について―」,同「濫用的会社分割関連の続報」),今回は改めて改正会社法の規律について確認します。

第1 改正会社法の新制度
 改正会社法は,濫用的会社分割対策として,残存債権者に承継会社・設立会社に対する直接請求権を認めています(株式会社に権利義務を承継させる吸収分割について改正会社法759条4項,持分会社に権利義務を承継させる吸収分割について同法761条4項,株式会社を設立する新設分割について同法764条4項,持分会社を設立する新設分割について同法766条4項。以下,この直接請求権を「本件新制度」といいます。)。
 まず,条文を確認します。「吸収分割会社」や「新設分割会社」等の表現が異なる点と,新設分割の場合には4項但書が存在しない点(新設分割の場合には設立会社の悪意を観念できないためです。)を除けば各条ともに要件は同一ですので,ここでは,株式会社に権利義務を承継させる吸収分割について規定した改正会社法759条を代表として挙げます。

 (株式会社に権利義務を承継させる吸収分割の効力の発生等)
 第759条
  (省略)
 2 (省略)
 3 (省略)
 4 第1項の規定にかかわらず,吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には,残存債権者は,吸収分割承継株式会社に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができる。ただし,吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでない。
 5 前項の規定は,前条第8号に掲げる事項についての定めがある場合には,適用しない。
 6 吸収分割承継株式会社が第4項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には,当該責任は,吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては,その期間を経過した時に消滅する。効力発生日から20年を経過したときも,同様とする。
 7 吸収分割会社について破産手続開始の決定,再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは,残存債権者は,吸収分割承継株式会社に対して第4項の規定による請求をする権利を行使することができない。
 8 (省略)
 9 (省略)
 10 (省略)

第2 現行民法の詐害行為取消権との比較
 本件新制度は,現行民法424条の詐害行為取消権とほぼ同様の要件で,ほぼ同様の効果(価額賠償)を認めるものです(江頭憲治郎『株式会社法 第5版』904頁(有斐閣,2014))。例えば,改正会社法の「債権者を害することを知って」の意義は現行民法424条1項本文と「債権者を害する」と同様に解釈されると考えられています(第一東京弁護士会総合法律研究所会社法研究部会編『〔新旧対照付〕Q&A 平成26年 改正会社法 ―社外取締役の規律見直し,多重代表訴訟制度の創設など―(初版)』184頁(新日本法規出版,2014))。分割会社について法的倒産手続が開始された場合に権利行使することができない点でも本件新制度は詐害行為取消権(破産法45条1項等)と同様です。念のため,現行民法の詐害行為取消権の条文を確認しておきます。

 (詐害行為取消権)
 第424条
  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
 2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
 (詐害行為の取消しの効果)
 第425条
  前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
 (詐害行為取消権の期間の制限)
 第426条
  第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

 本件新制度と現行民法の詐害行為取消権の違いは,①本件新制度は裁判外でも請求できるが詐害行為取消権は訴えによらなければならない点,②詐害行為取消権は,分割会社が法的倒産に移行した後に管財人が訴訟承継して従前の訴訟状態を利用できる点(破産法45条2項等),③詐害行為取消権を行使した場合には判決で会社分割が取り消されるのに対して,本件新制度は会社分割の効力には何ら影響しない点等です。
 ただし上記③の点は,現行民法424条の詐害行為取消権について相対的取消効しか認めない通説・判例の立場からすれば,詐害行為取消訴訟が認容されても,分割会社と設立(承継)会社との間では依然として会社分割は有効のままですので,この点もさしたる違いではありません。会社分割について詐害行為取消権の行使を認めた最判平成24年10月12日民集66巻10号3311頁も「詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではない」旨判示しています。
 上記①の点は本件新制度の方が便利ですが,一方で,上記②の点については,分割会社が法的倒産に移行すると従前の訴訟追行が無駄になり,それまで費やした訴訟費用が財団債権として補償される(同条3項等)こともないという点で,本件新制度よりも詐害行為取消権の方がむしろ使い勝手が良いようにも感じます。いずれにしても,これらの点は些末な違いに過ぎず,本件新制度は現行民法の詐害行為取消権と比べて特にメリットは感じられません。

第3 民法(債権関係)改正の議論との関係 ~改正会社法における新制度の独自の意義~
 もっとも,周知の通り,現在,法制審議会―民法(債権関係)部会で民法(債権関係)改正が議論されておりますが,将来の改正民法も視野に入れると,本件新制度は,民法(債権関係)改正の内容に影響されない会社法独自の制度を設けたという点が評価できると思います。
 平成26年8月26日に開催された民法(債権関係)部会第96回会議において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」が決定されました。この要綱仮案では,詐害行為取消の効果について「債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。」とされておりますので,将来の改正民法は詐害行為取消権について相対的取消の考え方を採用せず,債務者(分割会社)・受益者(設立(承継)会社)間でも取消効が生じる立場に方向転換する可能性が高い状況です。仮にそうなると,詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消した場合に,その取消しの効力が新設分割による株式会社の設立の効力に影響を与えるとして,新設分割は詐害行為取消権の対象にはならないという判断がされることも考えられます。
 仮に会社分割が民法(債権関係)改正の詐害行為取消権の対象になるとしても,要綱仮案では詐害行為取消権の期間制限について,詐害行為取消訴訟は「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは,提起することができない。行為の時から10年を経過したときも,同様とする」とされているため,効力発生日から20年間行使し得る本件新制度の内容とは異なります。
 今回の改正会社法による新制度は,このような民法(債権関係)改正の動向に左右されない会社法独自の制度を設けたという点でやはり一定の意義はあるように思います。

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