コラム

トップページ   >   コラム一覧   >   コラム詳細

コラム詳細

2014年09月01日
会社法関係     独占禁止法関係

弁護士 : 松本 智子

営業秘密を守るために

1 はじめに
 近年、知財重視路線により、技術上の営業秘密保護の重要性が強く認識されるようになり、また、コンピュータでの大量情報処理化により、顧客名簿などの営業上の営業秘密保護も重要となってきています。
 営業秘密侵害の事例といえば、昔は、中小企業から袂をわかって独立していく役員や幹部従業員が顧客名簿や取引先情報、原価表等を持ち出し、起業後の事業で流用する事例などが多数でしたが、最近は、ベネッセなど、何百万件という顧客情報が流出・転売される事例や、新日鉄住金と韓国のポスコ、東芝と韓国のSKハイニックスなど、退職技術者が技術的な営業秘密を漏えいした事例も出てきており、企業経営に与える影響はより甚大となってきています。
 一方、労働力の流動化も大きく進展し、労働者が国内外の競業企業への転職することや、同業で起業をすることも多く、退職者の職業選択の自由、営業の自由の保護の重要性も増して来ています。
 このような中で、営業秘密保護を全うするためには、どのように対処していけばよいのでしょうか。

2 不正競争防止法
 営業秘密の侵害については、不正競争防止法による差止め等の請求が考えられます。
 不正競争防止法による保護を受けるためには、同法2条6項の「営業秘密」の要件を満たす必要があります。すなわち、当該情報が、①「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(有用性)で、②「公然と知られていないもの」(非公然性)で、③「秘密として管理されていること」(秘密管理性)が必要です。
 この3要件のうち、裁判で争点となることが多いのは、③秘密管理性の要件です。
 秘密管理性の要件を満たすためには、それが秘密であることをアクセス者に認識可能な程度に管理しておく必要があるといえます(大阪高裁平成20年7月18日判決等)。
 具体的には、情報の性質(営業情報・技術情報の別、企業の営業活動の中で多数の者が共有する必要性がある情報かどうか等)、アクセス可能な者の範囲(人的管理の状況)、情報保有の形態(物的管理の状況)、情報を保有する企業の規模等(大企業か小企業か、研究・開発目的か等)、侵害の態様、等の相関関係によって、秘密管理しているといえるかどうかを、裁判所が判断することになります。
 最近の裁判所は、緩やかにこの要件充足性を判断することが多くなってきていますが、情報管理方法の策定の段階で、状況に応じた必要な管理をしておくことが肝要です。経済産業省策定の「営業秘密管理指針」(平成15年1月策定、平成25年8月改訂)を参考にしながら、営業活動の実態に応じて必要なレベルでの管理をされることをお勧めします。
 特に、厳格な秘密管理対応が困難な中小企業では、営業秘密の管理について一定の知識経験を有する者を育成して、資格者と認定し、その者を配置して、具体的な情報管理をすることが重要です。具体的な情報管理は、その企業の実情に応じ、できる限り秘密情報へのアクセス者を限定し、紙媒体の場合は施錠、電磁的記録の場合はパスワード設定、入退室の管理等を行い、定期的な点検をするなどの方法が考えられます。
 不正競争防止法による保護を受けるためには、①上記の3要件を満たす「営業秘密」に、②誰がどのような形でアクセスして、③誰に対してどのようにして漏えいして、④現在、誰がそれをどのように利用しているか、を確定する必要があります。
 侵害者・営業秘密を利用している者は、秘密管理性を否定し、あるいはまた、営業秘密へのアクセス、漏えい、利用を否定することがままあります。
 しかしながら、実際には、中小企業では厳格な秘密管理をしていないことが多いでしょうし、営業秘密を保有する側が、直接的な証拠によって、営業秘密侵害行為等を特定して主張・立証することには、困難が伴います。
 そこで、秘密管理性については、上に述べた情報の性質、アクセス可能な者の範囲、情報保有の形態、保有企業の規模などを積み上げて、アクセス者が秘密であることが認識可能であったことを立証していくことになります。
 侵害行為については、例えば、顧客が不自然に重複している、A社にしか知らせていない住所・氏名なのに他社からセールスを受けた、他社の技術レベルが短期間に飛躍的に上昇した、営業秘密を使用したとみられる製品がそっくりである、などの様々な間接事実を積み上げて、主張・立証していくことになりますが、容易ではありません。また、漏えいの気配や何かしらの異常を察知したときには、直ちに、役員まで報告し、情報共有をして、調査と証拠の保全などの対策に取りかかることが重要です。

3 秘密保持契約
 営業秘密を開示する者との間で、個別の秘密保持契約を締結し、契約上の義務違反を理由に営業秘密侵害行為の差し止め、損害賠償を求める方法もあります。
 一般に、従業員との間では労働契約の付随義務として、役員との間は委任契約の付随義務として、秘密保持義務があると解釈されていますが、実際に秘密情報を開示する場合には、守るべき秘密情報を、できる限り具体的に特定をして、個別に秘密保持契約を締結しておくことが望ましいといえます。
 また、取引先に営業秘密を開示する場合にも、同様に、秘密を特定して、秘密保持義務を明示して契約を締結しておくことが望ましいといえます。
 さらに、注意すべきは従業員、取引先との契約終了時です。開示していた秘密情報は、コピーを含めて全て返却を受け、労働契約や取引契約終了後も秘密保持義務は存続することを、改めて確認しておくことが肝要です。
 秘密保持義務違反による請求をする場合にも、義務違反行為、すなわち、何を、誰に対して、どのようにして漏えいして、現在、誰がそれをどのように利用しているかを主張・立証する必要があります。この点の立証が容易ではないことは、先に述べたとおりです。

4 競業避止特約
 上記のとおり、不正競争防止法、秘密保持契約による営業秘密の保護には、立証の困難が伴います。これに比し、退職者が競業していることや、競業他者へ就職していることの立証は容易です。
 また、秘密情報を使用してきた従業員や役員に染みついているノウハウや人脈等まで管理することはできず、その意味では完全な情報の流出防止は相当困難です。
 そこで、秘密情報を守るために、秘密情報を開示していた従業員、役員に対して、競業他者への再就職や同業での起業を禁止する競業避止契約を締結することも考えられます。
 しかしながら、一般的に、再就職・起業は退職者の生計に直結し、競業避止義務を約束する合意は、憲法上保障されている職業選択の自由・営業の自由への直接の制限になることから、その有効性は、厳格に判断される傾向があります。
 競業避止義務の有効性は、競業制限の期間、場所的範囲、制限対象となっている職種の範囲、代償措置の有無等について、権利者たる元の会社の秘密情報の保護による利益の程度、義務者たる退職者の受ける転職、起業の不自由の不利益、独占集中のおそれとそれに伴う一般消費者の利害の3つの観点から、慎重に検討し、必要かつ相当な限度のものでなければならないとされています(奈良地裁昭和45年10月23日判決など)。
 現在の雇用流動化が加速している傾向は、今後もさらに進展すると思われることから、競業避止義務の有効性が認められる範囲は、厳格に判断されることが続くと考えられます。

5 アクセス者の処遇等
 このように見てくると、営業秘密保護は、不正競争防止法と秘密保持契約により直接的に保護を図ることが原則で、競業避止特約は限定した場面でしか効力を発揮しない例外的な対応策であるといえます。
 また、営業秘密侵害行為は、発覚しにくく、その侵害行為が立証しにくいものであることを肝に銘じる必要があります。
 営業秘密侵害事案は、産業スパイのような外部者の犯行であることは少なく、そのほとんどが内部者による裏切りの事例です。
 営業秘密の流出を防止するためには、アクセスする内部者に対し、繰り返し、秘密情報の重要性とその流出防止の重要性を示し、その意識を高めることが重要であるといえます。
 個別の秘密保持契約の締結は、秘密情報への意識を高めるためにも有効であるといえます。
 また、内部者による裏切りには、少なからず金目当ての事例があります。
 秘密情報を開示している在職中の従業員の処遇をきちんとし従業員の納得を得ておくこと、秘密情報を開示している退職予定者ともよく話し合い退職者の納得を得ておくことにより、裏切りの芽を摘むことが、最も肝要です。

  • トピックス
  • 法律コラム
  • 関連リンク