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2013年12月04日
知的財産権関係     行政関係

弁護士 : 松本 智子

新しいタイプの商標と地域団体商標~商標法改正のうごき

一 はじめに
 現在、(1)色彩や音などの新しいタイプの商標保護の導入、(2)地域団体商標の保護の拡充、との二つの商標法改正が検討されています。
 これらの改正につき、商標制度の概要を説明し、今年の裁判例を参照しながら、ご紹介します。

二 商標制度の概要
 商標法は、商標を保護し、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護するための法律です(商標法1条)。
 商標とは、自己の生産、販売、取扱い等であることを表すために、その商品・サービスに付ける営業者独自の標識(目じるし)で、他人の商品・サービスとの区別をするためのものです。商標の本質は自他識別機能にあり、ここから、出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能が生じていくのです。
 商標として登録が認められれば、商標権者による独占的使用が認められ(商標法25条)、同一類似の商標の使用を禁止する権利が認められることになります(商標法36条、37条)。
 商標の登録要件では、商標の本質たる自他識別力を有すること(商標法3条1項)が必要とされ、商品・サービスの普通名称(1号)、商品・サービスの慣用商標(2号)、極めて簡単でかつありふれた標章のみからなる商標(5号)、その他自他識別力を有しない商標(6号)は登録できないこととされています。商標としての登録が認められれば、独占権が付与されますので、独占的使用権が付与するに値する自他識別力があるかが判断されるということです。
 新しいタイプの商標は、それが標識といえるか、出願登録主義のもと実務的にどのようにして商標を特定するか、自他識別力を有するかどうかの審査をどうするかが、問題となります。
 

三 自他識別力に関する今年の裁判例
 自他識別力を有することは商標の本質ですが、この点に関し、スプレー式の薬剤事件(知財高裁H25.1.10判時2189号115頁)、ほっとレモン事件(知財高裁H25.8.28 裁判所ウェブページ)の裁判例が下され、いずれも、自他識別力を有しないものと判断されましたので、自他識別力の考え方の参考になると思いますので、ご紹介します。 

 1 スプレー式の薬剤事件知財高裁H25.1.10判時2189号115頁
 前者は、スプレー式の薬剤を指定商品として、右手にスプレーを持ち、後ろ向きの人物が、首筋から背中にかけてスプレーを噴射している人物を表した図形からなる商標につき、スプレー式の薬剤及び薬剤と需要者の共通性が高い化粧品や衛生用品等の分野において,その商品の用途や使用方法等を説明するために,商品の包装用箱等に,商品を身体の特定の部位に使用している人物を示す図を用いることは,広く一般的に行われていること,上記のような図は,現に,背中に生じるニキビ用の薬用化粧品について,類似の図形からなるものが存在するなど,一般的に使用される標章であることに照らすと,「スプレー式の薬剤」について特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,自他商品の識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるといわざるを得ないと判断し、商標法3条1項6号該当により商標登録拒絶とされました。

  2 ほっとレモン事件知財高裁H25.8.28 裁判所ウェブページ
 後者は、カルピス株式会社が商標登録した、「ほっと」「レモン」を二段書き、それを囲む輪郭(上部中央が盛り上がった角の丸い四角形)の結合商標につき、サントリーホールディングス株式会社等が登録異議の申立てをし、特許庁が商標登録取消決定を行ったことから、カルピス株式会社が特許庁の取消決定の取消しを求めた事例で、本件文字部分のうち,片仮名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味すると理解するのが自然である。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから,本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえないと判断し、商標法3条1項3号該当により登録取消理由があると判示しました。

四 色彩や音などの新しい商標保護の導入
 1 新しいタイプの商標保護のニーズ
 
グローバル競争では、消費者ニーズの多少化を受け、特許に加えて、付加価値や差別化の源泉となるブランドによる差別化を図りやすくする必要が生じています。言語を超えたブランドイメージの発信手段の保護や模倣品対策として、色彩(輪郭のない色彩のみ)、音(サウンドロゴ)、動き、ホログラム、位置等の新しいタイプの商標を活用する動きが見られ、これを保護する必要が生じています。
 米国、欧州、韓国等ではこれらの商標の保護を図る規定が既に整備されています。

  2 従来の登録対象
 
これまで、商標法が保護対象としてきたのは、文字、図形、記号、若しくは、立体的形状、若しくは、これらの結合またはこれらと色彩の結合からなる各標章(商標法2条1項)に限定されていました。そのため、音、色彩は、保護対象たる標章に当たらず、動き、ホログラム、位置は、出願手続き等が整備されておらず、いずれも登録出願ができませんでした。
 これらの新しいタイプの標章は、既に使用されて、需要者に認識されてきているものもありますが、不正競争防止法で、周知商品等表示混合惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)、著名商品等表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)、商品形態模倣行為(不正競争防止法2条1項3号)などでの保護を求めていくほかありませんでした。たとえば、かに道楽の動くかにの看板について保護が認められた大阪地裁S62.5.2判タ639号259頁、塗るつけまつげ事件でマスカラの容器包装についての保護が認められた大阪地裁H20.10.14判タ1317号253頁などがありますが、不正競争防止法の要件を充足する必要があり、保護が不十分でした。

 3 商標法改正の方向性
 
上述のとおり、商標法は、自他識別力を有する標識(目じるし)を保護することを目的とするものです。新しいタイプの商標も、同じく自他識別力を有する標識になりうるものについては、登録できるように改正作業が進められています。
 具体的には、商標の定義規定に具体的例示を挙げた包括的な定義規定を追加するとともに、対象となる商標の特定のため、願書の記載の方法を、国際的に承認されたカラーコードで特定、音声ファイルによる特定、商標見本による特定、静止画と動きの順序で特定などにより、具体的に定める方向で改正作業が進められています。
 そして、新しいタイプの商標についても、商標の本質である自他識別力を有すること(商標法3条)が登録要件として要求されます。この点、どのようなものを自他識別力がないとするかを具体的に示した審査基準の作成作業も進められており、商品・サービスの必然的特徴、必須の特徴、通常付加される特徴など(指定商品の自然色、指定商品の使用の際に生じる音、電子機器の電子音など)は、識別力を有しないものとして不登録事由を整理しようとしています。

五 地域団体商標保護の拡充
 1 地域団体商標制度
 
2006年(平成18年)4月、地域活性化を図るために、地域団体商標制度を導入し、改正前は全国的な周知性がなければ認められなかった「地域名」と「商品・サービス」名からなる商標について、一定の範囲で周知となった場合に登録できるよう要件を緩和しました(商標法7条の2)。
 現在、泉州水なす、堺刃物、有馬温泉など、550件を超える地域団体商標が登録されています。

 2 地域団体商標登録主体の拡充
 
2006年に地域団体商標制度が導入された当時は、元々地域にあった特産品、観光資源の登録を念頭に置いていたため、地域団体商標の登録主体は、これらの担い手である農業協同組合または事業協同組合等の団体に限られていました(商標法7条の2)。
 ところが、このところ、ご当地グルメでの町おこしなど、ご当地の魅力を認識・再発見して、これを発信して地域活性化していこうという取り組みを、商工会や、NPO等が中心となって行われることが多くなりました。商工会等の団体は地域団体商標の登録主体となりえず、そのため「○○グランプリ優勝の○○○○」などと勝手に名乗って、第三者が商品を販売し、地域活性化を阻害する事態が生じていました。
 そこで、現状に即した新たな地域ブランドの保護を図り、その適切な使用により地域活性化につなげるため、今回、地域団体商標登録主体を拡充し、商工会、商工会議所、NPO等を登録主体へ追加する改正が検討されています。この改正によって、地域活性化の趣旨に従った、適切な地域団体商標の管理が図られることになります。

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