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2012年12月01日
債権回収・保全     会社法関係

弁護士 : 佐藤 高志

濫用的会社分割関連の続報

  いわゆる「濫用的会社分割」に関する問題について,以前(2012年4月24日)本コラムで扱いましたが(濫用的会社分割の概要や対処方法,会社法改正の中間試案等については拙著「会社法改正―濫用的会社分割への対応について―」をご参照ください。),その後,平成24年8月1日開催の法制審議会会社法制部会第24回会議(なお審議状況の詳細は,法務省のHPで確認することができます。)の部会資料27として「会社法制の見直しに関する要綱案(案)」が公表され,同年9月7日開催の法制審議会第167回会議で採択されました(以下「改正要綱」といいます。)。また,平成24年10月12日には,最高裁判所として初めて新設分割(会社法2条30号)に詐害行為取消権(民法424条1項)の適用を認める判断(最判平成24年10月12日金商1402号16頁(以下「最判平成24年10月12日」といいます。)の全文は最高裁判所のHPでご覧頂けます。)が下されました。
 本コラムでは,拙著「会社法改正―濫用的会社分割への対応について―」の続報として,最判平成24年10月12日と改正要綱についてご紹介いたします(なお,略語等は従前の例に従います。)。

第1 最判平成24年10月12日について
 1 新設分割が詐害行為取消権の対象になる旨の初判断
  拙著「会社法改正―濫用的会社分割への対応について―」でもご説明しましたが,濫用的会社分割に対する平時の対応方法としては,①詐害行為取消権,②商号続用責任(会社法22条1項)の類推適用,③法人格否認の法理の3つがあります。
  この内①詐害行為取消権は,②商号続用責任の類推適用や③法人格否認の法理と比べると,分割会社が倒産した場合にリスクはあるものの,比較的成立が認められやすいというメリットがあります。
  ただし,①詐害行為取消権には,「ⅰそもそも組織行為である新設分割が詐害行為取消権の対象となるか,ⅱ新設分割の対価として承継会社の100%株式の交付を受けているのであるから,詐害性(分割会社の積極財産を減少又は消極財産を増加させること)がないのではないか,ⅲ新設分割を取り消すことができたとしても,流出した財産の現物返還をすべきではないか等の理論的な問題」が残っていました。
  最判平成24年10月12日では,承継会社は上記ⅰの点について,上告受理申立人の㋐会社の組織に関する行為である新設分割は民法424条2項にいう財産権を目的としない法律行為である,㋑新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると,新設分割の効力を否定するための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反するほか,同法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者に同手続の対象とされている債権者以上の保護を与える等として,新設分割は詐害行為取消権の対象とならない旨の主張に対して,最高裁判所として初めて新設分割が詐害行為取消権の対象となることを認める判断が下されました。
  裁判所のHPに掲載されている裁判要旨では「株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」とまとめられています。この点の判断については従前からの議論を超えるものではありません。(a)新設分割が組織行為としての側面があったとしても,財産権を目的とする法律行為の性質を有する点は否定できないこと,(b)残存債権者が債権者意義手続の対象外であること等から,詐害行為取消権が認められなければ残存債権者の保護を図ることができないこと,(c)いわゆる相対的取消効の考えから債務者(分割会社)に詐害行為取消訴訟の被告適格を認めない通説・判例の立場からすれば詐害行為取消の効力は新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼさないこと等から当然予想された結論でした。
  したがって,この点に関する解説等は他に譲り,本コラムでは注目されるべき須藤正彦裁判官の補足意見について触れたいと思います。

 2 須藤正彦裁判官の補足意見 ~偏頗行為としての新設分割~
  詐害行為取消権の対象となる法律行為には,概ね,①責任財産を減少させる行為(破産法160条1項参照),②責任財産の態様を変更する行為(破産法161条参照),③偏頗行為(破産法162条1項参照)の3種類が考えられます。この内①が詐害行為取消権の対象となりうることに争いはありません。②及び③については,形式的には責任財産が減少しないため原則として詐害行為取消権の対象にはなりませんが,最高裁判所は事案によっては例外的に詐害行為に該当する場合があることを認めています(最判昭和39年11月17日民集18巻9号1851頁等)。
  新設分割による濫用的会社分割の場合には,分割会社は新設分割の対価として承継会社の全株式を取得します。この全株式は,理論上は,承継財産である分割会社の価値と同価値だと考えられますので,分割会社の責任財産の価額に変動は生じず,形式的には,①責任財産を減少させる行為には該当しません。
  そこで,これまでの下級審(福岡地判平成22年9月30日金法1911号94頁等)では,新設分割の直後に新設分割会社が新設分割設立会社の株式を廉価で売却している事情等から,当該株式価値を承継財産価値よりも廉価だと認定することで,①責任財産を減少させる行為に該当する等としていました。また,仮に責任財産の減少がないとしても,責任財産を「流出しやすく,保全,財産評価,適正な価格での換価などに著しい困難を伴う株式に変更すること」が②責任財産の態様を変更する行為に該当するとして詐害行為性を肯定するものもありました。
  しかし,須藤正彦裁判官の補足意見はこれらとは異なり,新設分割を③偏頗行為の一種と見るものだと思われます。すなわち,本来,承継債権者と残存債権者の双方の債権の引当となっていた分割会社の資産の内,優良資産を新設分割によって承継会社に承継させて承継債権者の債権の引当とすることで,残存債権者と承継債権者で著しい不平等を生じさせたことをもって,「一種の偏頗行為」(金融商事法務1402号16頁以下)と見るものです。
  この考え方は,濫用的会社分割の実質面をよく捉えていますし,新設分割の対価である株式の価値の相当性の問題を論じる必要性がなくなる点で魅力的です。しかし,偏頗行為とは,債権者に対する債務の弁済や担保提供行為を指すところ,新設分割行為は何ら債務消滅行為や担保提供行為を含みませんので,私は,やはり法律論としては新設分割を③偏頗行為だと捉える考え方には若干無理があるのではないかと考えています。
  いずれにしろ,今後の議論が期待されるところです。

第2 改正要綱について
 1 改正要綱の内容
  改正要綱で提案されている新制度の内容は以下の通りです。現在は,この改正要綱の内容と大きく変わらない内容で新制度が設けられる可能性が高い状況にあります。

「第5 会社分割等における債権者の保護
 1 詐害的な会社分割等における債権者の保護
 ① 吸収分割会社又は新設分割会社(以下『分割会社』という。)が吸収分割承継会社又は新設分割設立会社(以下『承継会社等』という。)に承継されない債務の債権者(以下『残存債権者』という。)を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。ただし,吸収分割の場合であって,吸収分割承継会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでないものとする。
(注) (中略)
 ② ①の債務を履行する責任は,分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては,その期間を経過した時に消滅するものとする。会社分割の効力が生じた時から20年を経過したときも,同様とするものとする。
(注1) ①の請求権は,分割会社について破産手続開始の決定,再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定がされたときは,行使することができないものとする。
(注2) (以下略)」

 改正要綱中間試案とでは文言自体はほとんど変わりませんが,「②(注1)」が追加された点が注目されます。また,中間試案の公表後に審議状況にも注意すべき点がありますので,以下ご紹介します。

 2 分割会社について破産手続等が開始した場合の取扱い
  拙著「会社法改正―濫用的会社分割への対応について―」でご説明したように,②商号続用責任の類推適用や③法人格否認の法理が,①詐害行為取消権よりもメリットが大きい点として「承継会社に対する直接の請求権(不真正連帯債務)が認められるため,分割会社について破産手続等が開始してもその影響を受けない点」が挙げられます。会社法改正により導入が検討されている新制度も,詐害行為取消権とは異なり,承継会社に対する直接請求権を認めるものですので,同コラムでは「承継会社に対する直接請求は分割会社について破産手続等が開始しても影響を受けません」として,新制度の利点の1つとして挙げていました。
  しかしながら,平成24年3月21日開催の第18回会議議事録41~43頁や,平成24年7月4日開催の第22回会議議事録18~21頁で破産手続との調整が必要ではないかという指摘を受けて,改正要綱では上記「②(注2)」が設けられ,分割会社について破産手続等が開始した場合には,新制度による直接請求権を行使できないことが注記されました(同月18日開催の第23回会議議事録17~18頁参照)。
  その他,残された問題として,債権者が競合した場合や破産管財人による否認権との調整をどうするのか点も今後の解釈に委ねられることになるとのことですので,②商号続用責任の類推適用や③法人格否認の法理と比べると,新制度による直接請求権の効果は一歩下がるものになります。

 3 「承継した財産の価額を限度」の意味
  新制度では,「承継した財産の価額を限度として」承継会社等に対する直接請求が認められていますが,ここでいう「承継した財産の価額」の考え方としては,「承継した財産の価額から承継した債務の価額を控除した金額をもって『承継した財産の価額』とする」という考え方もあり得るところでした。
  この点について,平成24年3月21日開催の第18回会議の部会資料20「親子会社に関する規律に関する個別論点の検討(2)」12頁では「承継会社等が分割会社から財産だけでなく債務も承継した場合における,『承継した財産の価額』とは,当該財産の価額から当該債務の価額を差し引いた残額ではなく,当該財産自体の価額であると解することとなると考えられる。」との考え方が示されています。
  同会議議事録43頁で「『財産の価額』というのが,どうして,承継した債務の価額を差し引いた価額ではないと考えることになるのかという点ですが,『財産』という用語からしても,当然,部会資料20にある通りになるのではないかというのがまずあると思います。また,その財産から債務を控除した額としてしまうと,残存債権者が承継会社等に請求できる額というのは,その分なくなってしまって,結局,この見直しの目的が達成できないということになってしまうのではないかというところからして,この『なお』以下のような記載をしたというところでございます。」と述べられています。
  この考えによれば,濫用的会社分割の承継会社は,承継した財産と同額を上限とする債務を承継する一方で,さらに「承継した債務」はそのまま有効と扱われることになりますから,承継会社(特に吸収分割設立会社)は濫用的会社分割によって従前より不利な立場に置かれることになります。これにより,濫用的会社分割に対する一定の抑止効果が期待できるのと思いますので,上記考えに私は賛成です。
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