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2012年04月24日
債権回収・保全     会社法関係

弁護士 : 佐藤 高志

会社法改正―濫用的会社分割への対応について―

本コラムでは,まず,濫用的会社分割を簡単に説明し,現行法制度上の対応策を検討したうえで,現在審議されている会社法改正の議論について検討します。なお,意見にわたる部分は私の個人的見解であり,私の所属する法律事務所・団体の意見ではありません。

1 濫用的会社分割
 平成18年5月1日に施行された会社法下では,新設分割設立会社(会社法763条1号。以下「承継会社」といいます。)に債権が承継されず,新設分割会社(会社法763条5号。以下「分割会社」といいます。)に残存する債権者(以下,この債権を「残存債権」といい,残存債権の債権者を「残存債権者」といいます。)に,債権者異議手続が認められていません(会社法810条1項2号)。
 そこで,近年,この会社法上の「不備」を突いて,「債務超過やそれに等しい窮状に陥った会社が,金融機関等の既存債権者との債務整理に関する交渉中に,金融機関等には秘匿したまま,優良資産や事業継続に必要な取引債務のみを新設会社に承継し,他方,金融債務等のその他の既存債務については抜け殻となった分割会社に残存させるという」(奥山健志(2011)「会社分割の濫用 会社分割の濫用事例を踏まえた会社分割制度の問題点」(岩原紳作他編『ジュリスト増刊 会社法施行5年 理論と実務の現状と課題』有斐閣。)),濫用的会社分割が行われるケースが散見されるようになっています(新設分割ではなく吸収分割を用いるケースもありますが,吸収分割の場合もほぼ同様の議論が妥当します。)。

2 濫用的会社分割の問題点
 濫用的会社分割では,通常,新設分割の対価として,承継会社の100%株式が分割会社に交付されます。そのため,理論上は,分割会社は,承継会社に承継された優良資産と同等の価値を持つ承継会社の株式等を取得することになり,形式的には,分割会社の財産状況に変動は生じません。
 しかし,承継会社の株式は,通常,非上場の譲渡制限付株式(会社法2条17号)ですから,その換価可能性は限りなく低く実質的な価値はほとんどありません。したがって,濫用的会社分割が行われた場合,抜け殻となった分割会社にしか請求できない残存債権者が自己の債権の満足を図ることは極めて困難になります。
 このように,厳格な手続きが要求される法的倒産手続(民事再生や会社更生)を経ずに,また金融債権者等の同意無しに実質的な債務カットをして事業継続を実現することができる会社分割は,新たな企業再生の一手段として注目されるようになったのです。

3 濫用的会社分割に対する対処方法
 残存債権者は,他に保証人や担保を取得していない限り,原則として分割会社に対してしか残存債権の支払いを請求できません。しかし,抜け殻となった分割会社には実質的な資産価値はほとんどありませんので,優良資産を承継した承継会社に対する請求権を確保することが極めて重要になります。その法律構成としては,概ね以下の3つが考えられます。

 (1) 詐害行為取消権
 詐害行為取消権(民法424条1項)とは,残存債権者を害する新設分割を取り消して,承継会社から分割会社へと流出した優良資産を取り戻したり(現物返還),流出財産相当の金銭を残存債権者に対して支払わせる(価額賠償)制度です。
 なお,分割会社が破産等した場合は,後述のように,個別の残存債権者が詐害行為取消権を行使することは許されず,場合により管財人が否認権(破産法160条以下等)を行使することになりますが,本コラムでは分割会社が破産等しない場合に絞って検討します。

 (2) 商号続用責任の類推適用
 承継会社が分割会社の優良資産・名称等をそのまま用いて事業を継続している場合,残存債権者は,会社法22条1項に基づく商号続用責任の類推適用(最判平成20年6月10日判時2014号150頁)により,承継会社に対して,残存債権の支払いを直接請求することが考えられます。

 (3) 法人格否認の法理
 法人格否認の法理とは,会社等の法人の法人格の独立性を形式的に貫くことが正義・衡平に反するような場合に,信義則等の一般法理に基づき,当該事案の解決に必要な範囲で法人格の独立性を否定し,会社とその背後の株主とを同一視して事案の衡平な解決をはかる法理です(江頭憲治郎『株式会社法』39頁(有斐閣,第4版,2011))。分割会社の実質的影響下で承継会社が承継した優良資産をほぼそのまま使用して事業を継続しているような場合,残存債権者は,当該新設分割は残存債権の債務免脱目的で行われものであり承継会社の法人格が濫用されているとして,承継会社に対して,直接残存債権の請求をすることが考えられます。

4 対処方法のメリットとデメリット
 詳細な検討は省略しますが,以上の3つの対処方法については,法律効果の点と法律要件の点で,概ね以下のメリットとデメリットが考えられます。

 (1) 法律効果
 商号続用責任の類推適用と法人格否認の法理が認められた場合には,残存債権について分割会社と承継会社が不真正連帯責任を負うことになります。したがって,残存債権者は承継会社に対して,残存債権全額について請求することができますし,分割会社について法的倒産手続が開始しても,承継会社に対する請求には影響がありません。
 一方で,詐害行為取消権の場合は,その請求が認められても,原則として流出した優良資産の現物を分割会社に返還することを求めることができるにとどまります(現物返還)。
 また,例外的に流出した優良資産の現物返還が著しく困難であるとして残存債権に対する価額賠償が認められたとしても(ただし,下級審の裁判例で,価額賠償が否定されたケースは見当たりません。),あくまで流出した財産の限度でしか,価額賠償は認められません。
 さらに,分割会社について法的倒産手続が開始した場合,①訴訟係属中に分割会社が倒産した場合には,せっかく提起した詐害行為取消訴訟は中断してしまいますし(破産法45条1項等),②詐害行為取消訴訟の勝訴後に法的倒産手続が開始した場合であっても,回収行為(残存債権者は,承継会社に対して取得した詐害行為取消訴訟の債務名義に基づいて承継会社に対して強制執行をして回収した金銭について,分割会社に対して返還する義務(不当利得返還義務)を負いますが,この返還義務を受働債権,残存債権を自働債権として相殺をすることで,残存債権の回収を図ることができます。)が,相殺禁止(破産法71条1項各号等)に該当する可能性があります。
 このように,法律効果の面からみれば,承継会社に対して残存債権全額の不真正連帯責任を負わせる商号続用責任の類推適用及び法人格否認の法理構成の方が,詐害行為取消権構成よりも有利です。

 (2) 法律要件
  しかしながら,法律要件の面で見るとこの優位性は逆転します。

  ア 商号続用責任の類推適用
 まず,商号続用責任の類推適用は,分割会社が「分割会社の債務を弁済する責任を負わない」旨の登記をすることで容易にその責任を回避することができます(会社法22条2項)。
 また,下級審の裁判例(大阪地判平成22年10月4日金法1920号118頁)には,新設分割のわずか2日前に,残存債権者に対して,当該残存債権は承継されない旨の説明が行われていた事案において,残存債権者において「同一の営業主体による営業が継続している,あるいは,譲受会社により債務又は履行の引受がされたと信頼したと認めるには足りない」として商号続用責任の類推適用を否定するものもあります。
 このように,濫用的会社分割を行おうとする分割会社からすれば,「適切」な手段を講じることで,容易にその責任を回避することが可能です。

  イ 法人格否認の法理
 法人格否認の法理は,民法1条2項・3項や会社法3条といった一般法理をその根拠とするものですが,判例(最判昭和44年2月27日民集23巻2号511頁等)の積み重ねにより,ある程度類型化されています。濫用的会社分割の場合には,法人格否認の法理の類型のうち法人格の濫用型に該当しますので,その要件は,①支配の要件(法人格が背後者により意のままに道具として支配されていること)及び②目的の要件(背後者に違法又は不当な目的があること)の2つにわかれます。
 濫用的会社分割の場合,承継会社は分割会社の100%子会社になりますし,承継会社の代表取締役に分割会社の関係者が就任するケースが多く,また,承継会社は分割会社の優良資産をそのまま用いて事業を継続することから,通常,①支配の要件の充足は容易に認められますので,争点はもっぱら②目的の要件の充足性になります。
 従前の判例・裁判例の考え方を濫用的会社分割の場合にそのままあてはめると,この「違法又は不当な目的」は「分割会社が,残存債権の債務免脱を目的として当該新設分割を行ったか」と言い換えることができ,比較的容易に②目的の要件の充足を立証することができそうに思えます(分割会社が,残存債権者に対して新設分割後の債務返済計画等を提示・説明していなかったり,その返済が実行されていなければ,債務免脱目的は認められやすいですし,逆に,そのような提示・説明・返済が行われている場合はそもそも濫用的会社分割にあたらないともいえます。)。
 しかしながら,裁判例では,目的の要件を制限的に解釈適用するものも散見されます。例えば,前掲大阪地判平成22年10月4日では,(i)倒産状況にないにもかかわらずこれを偽装して行われた,(ii)会社分割の内容が,実質的にみても債権者平等原則の要請に著しく反する,(iii)会社分割の内容が,分割会社の債権者に対する配当の見込みを明らかに減少させる,(iv)会社分割の手続において,財産状況等について明らかに虚偽の説明を行った,等の特段の事情がある場合にはじめて②目的の要件の存在が推認されるにとどまるとしています。また,濫用的会社分割の事例でおそらく初めて法人格否認の法理を適用した福岡地判平成22年1月14日金法1910号88頁も,控訴審(福岡高判平成23年10月27日金法1936号74頁)で,法人格否認の法理の主張については排斥されました(もっとも,法人格否認の法理を適用した裁判例としては,他にも福岡地判平成23年2月17日金法1923号95頁や大阪地判平成24年1月27日公刊物未掲載があります。)。
 このように,法人格否認の法理は,明らかな濫用事例以外では容易に認められない傾向がありますので,これも分割会社からすれば,新設分割後の債務返済計画案を債権者に提示して体裁を整える等の「適切」な手段を講じることで,その責任を回避することが可能だと思われます。

  ウ 詐害行為取消権
 詐害行為取消権は明文の根拠がありその要件が比較的明確ですが,濫用的会社分割との関係では,ⅰそもそも組織行為である新設分割が詐害行為取消権の対象となるか,ⅱ新設分割の対価として承継会社の100%株式の交付を受けているのであるから,詐害性(分割会社の積極財産を減少又は消極財産を増加させること)がないのではないか,ⅲ新設分割を取り消すことができたとしても,流出した財産の現物返還をすべきではないか等の理論的な問題が議論されています。
 もっとも,裁判例では,東京高判平成22年10月27日金法1910号77頁をはじめとして,いずれも濫用的会社分割に対する詐害行為取消権の適用が認められており,価額賠償を否定する裁判例も見当たりません。
 最高裁判所で新設分割に対する詐害行為取消権の適用が否定されるリスクが全くないというわけではありませんが,現状では,もっとも安定してその成立が認められている法律構成だといえます。

5 会社法改正の方向性(中間試案の内容)
 このような実務の状況を踏まえて,現在,法務省の法制審議会・会社法制部会では濫用的会社分割に対応するための新規定の創設を検討しています(審議状況の詳細は,法務省のHPで確認することができます。)。
 具体的には,平成23年12月に法務省民事局参事官室より「会社法制の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」といいます。)が公表され,これに対するパブリックコメントの応募が平成24年1月31日に締め切られ,同年2月22日に開催された第17回会議部会資料19で「『会社法制の見直しに関する中間試案』に対して寄せられた意見の概要」(以下「意見の概要」といいます。)が公表されたところです。
 中間試案では,以下の条項の新設が提示されました。
「第6 会社分割等における債権者の保護
1 詐害的な会社分割における債権者の保護
 ① 吸収分割会社又は新設分割会社(以下第6において『分割会社』という。)が,吸収分割承継会社又は新設分割設立会社(以下第6において『承継会社等』という。)に承継されない債務の債権者(以下『残存債権者』という。)を害することを知って会社分割をした場合には,残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとする。ただし,吸収分割の場合であって,吸収分割承継会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでないものとする。
 ② 残存債権者が,分割会社が①の会社分割をしたことを知った時から2年以内に①による請求又はその予告をしない場合には,①による請求をする権利は,当該期間を経過した時に消滅するものとする。会社分割の効力が生じた時から20年を経過したときも,同様とするものとする。」
 これは,概ね,詐害行為取消権の要件とほぼ同様の法律要件で,法律効果としては承継会社に対する直接請求権を認めつつ,詐害行為取消権における価額賠償と同様に「承継した財産の価額を限度として」金銭の支払義務を認めるものです。承継会社に対する直接請求は分割会社について破産手続等が開始しても影響を受けませんから(※追記:本コラム執筆後,分割会社について破産手続等が開始した場合には新制度による直接請求権を行使できない方向で議論されています。詳しくは,拙著「濫用的会社分割関連の続報」をご参照ください。),「承継した財産の価額を限度として」という制限を除けば,詐害行為取消権,商号続用責任の類推適用及び法人格否認の法理の「良いとこ取り」のような制度として,現状と比べれば一歩前進する制度であることは確かでしょう。

6 意見の概要
 中間試案に対する意見の概要としては,「詐害性のない会社分割を利用した組織再編への悪影響が大きい」として反対する意見もありますが,基本的な方向性としては賛成が多数を占めています(なお,そもそも,「残存債権者も,事前の債権者保護手続の対象とすべきである。」という意見や,「分割会社は,残存債権者に対しても,会社法第799条第2項又は第810条第2項所定の事項を格別に通知しなければならないものとし,分割会社がこの通知を怠った場合は,当該通知を受けなかった残存債権者は,承継会社等に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求することができるものとするなどの規定を設けるべきである。」という意見もあります。)。
 しかし,各論となると意見が分かれます。
 まず,詐害性・詐害意思の段階で,「『害することを知って』の意味を,会社分割又は事業譲渡時の弁済率を害するものであることを明確にすべきである。」との意見があり,会社分割時の清算価値を上回る弁済計画を立てて会社分割が行われる場合には詐害性を否定する方向での議論がある一方で,詐害性・詐害意思の推定規定を設けるべきという意見がありました。
 また,「承継した財産の価額を限度として」という部分については,このような「責任限度額を設けるべきではない」という反対意見や,仮に「責任限度額の定めを設ける場合には,限度となる『財産の価額』は,承継会社等が承継した『負債の額』を控除しない価額であること及び『のれん等の資産の額』を含めた価額であることを明記すべきである」とする等の反対意見もありました。

7 私見
 私は,中間試案の制度では,濫用的会社分割に対する抜本的な解決としては不十分だと思います。やはり,残存債権者を債権者保護手続の対象に加えることが重要だと思います。債務超過に陥った会社が,残存債権者を無視して会社分割できてしまう現行会社法制度に根本的な問題があると考えるからです。
 また,中間試案のような制度を導入するのであれば,下記の2点を改善すべきだと思います。
 第1に,「承継した財産の価額を限度として」という制限を撤廃することです。濫用的会社分割をしても,結局,承継した財産の限度でしか承継会社は責任を負わないことになれば,窮地に陥った分割会社としては,とりあえず濫用的会社分割をしておいて,後に裁判で濫用的会社分割だと認定されても,承継会社は承継財産の限度,すなわち当該新設分割によって利益を受けた限度で残債権の支払義務を負うにとどまりますので,デメリットはそれほどありません。窮地に陥った会社にとってみれば「とりあえず濫用的会社分割をやってみよう」ということになり,濫用的会社分割に対する抑止効果は期待できません。
 第2として,立証の問題が挙げられます。法律要件が詐害行為取消権とほぼ同じといっても,やはり詐害性を立証するのは簡単ではありません。特に濫用的会社分割の場合,残存債権者に対して決算書等の資料が十分に開示されないケースがあります。承継会社に対する請求訴訟をして請求が認められても判決が出るのは1年近く先になりますので,承継会社の財産を保全しておく必要がありますが,書証等が不十分なために仮差押えの申立ても簡単ではありません。せっかく勝訴しても,本案訴訟の係属中に,承継会社等が資産を隠匿してしまうリスクが高く,債権の回収は極めて困難です。そこで,立証(疎明)を容易にする観点から,何らかの形で,詐害性・詐害意思の推定規定を設けてはどうか考えます。

8 まとめ
 会社法改正は,債権法改正ほどは注目されていないようですが,債権法改正よりも先に改正が実現する見込みで,また,非常に重要な基本法令の改正です。今後も法制審議会の審議状況が注目されます。

以 上
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