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2011年12月16日
保険関係     相続関係     税務・税法関係

弁護士 : 松本 智子

年金払特約付き生命保険への相続税と所得税の二重課税問題~最判平22・7・6について

1 はじめに
 遺族の方が年金の形で生命保険金を受け取っている場合,相続税の課税対象となった部分については,所得税の課税対象にならないとする最高裁の判決がありました(最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁)。この判決に伴い,従来の課税実務が変更されつつあります。新聞報道等によると,遺族が年金の形で生命保険金を受け取られているケースは数万件,年金型の生命保険契約は数百万件あるということで,判決の与える影響は,相当大きいと思われますので,ご紹介します。

2 事案の概要
 長崎県にお住まいの男性が,妻を受取人として,生命保険をかけていました(契約者夫,被保険者夫)。平成14年に夫は死亡し,妻は,死亡保険金4000万円と,平成14年から10年間・毎年230万円の年金(総額2300万円)を受け取る権利を取得しました。
 上記年金を受け取る権利について,相続税法では,1380万円と評価され課税対象とされていました(年金総額の100分の60とする旨と相続税法の規定がありました)。
 妻は,平成14年に受け取った年金230万円につき,年金所得として申告をしませんでした。
これに対し,国が,年金に対し所得税を課す更正処分(=受領した年金額から契約者である夫が払い込んだ保険料を控除した金額に対し,所得税を課す増額更正処分)を行いました。
 妻は,受領した年金は,相続税の課税対象となった財産であるから所得税は非課税となる(当時の所得税法9条1項15号・現16号)と主張して,国の所得税増額更正処分の取り消しを求めました。

3 問題の所在
 本件では,生命保険金の年金払い部分については,保険契約で,夫死亡時に,一時金として受け取るか,年金として受け取るかを選択できることとされ,一時金で受け取る場合は前倒しで受け取るので予定利率を割り引いた2000万円となることとされていました。本件の妻は,年金として受け取る方を選択したため,上記のように,年金部分に対する所得税が課税されました。
 しかし,仮に,夫死亡時に一時金として2000万円を受け取る方を選択していれば,相続税では2000万円と評価され課税対象とされますが,その後所得税は非課税となることとされていました。
 この一時払を選択したときと,年金払を選択したときの税法上の異なる取り扱いが適法かどうか問題となったのです。

4 最高裁判所の判示した事項
 遺族の方が年金の形で生命保険金を受け取っている場合,相続税の課税対象となった被相続人死亡時の現在価値部分は,所得税の課税対象にならない。
 第1回目の年金については,夫の死亡日に受け取るべき年金であるから,支給された額と,被相続人死亡時の現在価値と一致するものである。
 従って,第1回目の年金については全額が所得税の課税対象とはならない。

5 最高裁の判断を受けた課税実務の変更
(1) 所得税について
 上記最高裁の判断を受け,課税実務が変更され,遺族等の方が年金の形で生命保険金を受け取っている場合,相続税等の課税対象となった部分については,所得税の課税対象にならないこととなりました。相続等の際に,基礎控除等の範囲内であったため,実際には相続税等を支払っていない場合も,所得税の二重課税はされません。
 一方,年金については,年金の支払者が,相続税法との二重課税回避により所得税の課税対象となるかどうかに関わらず,所得税法所定の方法により計算をした所得税を源泉徴収する義務があると上記の最高裁が判断しています。
 従って,年金受取人は,国に対する確定申告・更正請求により,払い過ぎた所得税を取り戻すことになります。
 国税庁は,過去5年分の所得税については,確定申告をしている年分については,「更正の請求」を経て,減額更正を行い還付しています(国税通則法24条・70条2項参照)。また,確定申告をしていない年分については,「確定申告(還付申告)」をすることにより,所得税の還付を受けることができます。
 さらに,過去5年を超える分についても,特別立法により「特別還付金」制度が設けられ,平成12年分の所得税まで遡って還付を受けることができるようになりました(平成23年6月30日施行)。ただし,特別還付金については,平成24年6月29日までに請求手続きをする必要がありますので,期限に注意してください。
 これらについて,国税庁ホームページに,どのような方が対象となるか,どのようにして手続をすればよいか等が掲げられていますので参照してください。

(2) 相続税等について
 本件では,一時払を選択したときと,年金払を選択したときに,相続税法の評価額が大きく異なることが問題の一つとされていました。
 今般,年金払方式の生命保険金の相続税評価額を,一時払方式を選択した場合に近づける改正がなされました。
 従って,改正相続法の施行日(平成23年4月1日)以降に発生した相続等で年金の形で生命保険金を受け取る場合,相続税の課税対象となる部分が従前より大きくなることとなりました。課税対象額圧縮のために年金払方式の生命保険を利用されていた場合など,再考が必要な方も出てきているようです。
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