コラム

トップページ   >   コラム一覧   >   コラム詳細

コラム詳細

2011年12月22日
相続関係

弁護士 : 佐藤 高志

「相続させる」遺言と代襲相続の可否~最判平23・2・22について

1 本判決の意義
 父親(遺言者)が長男(推定相続人)に全財産を相続させる旨の遺言(いわゆる「相続させる」遺言と呼ばれています。)をしていた場合に,父親よりも先に長男が死亡してしまったときはどうなるでしょうか?
このような場合に,「相続させる」遺言の効力を否定する見解(代襲相続否定説)がある一方で,長男の子が長男を代襲して,全財産を相続するという考え方(代襲相続肯定説)が有力に唱えられていました。
 本判決(最判平成23年2月22日民集65巻2号699頁)は,「相続させる」遺言に代襲相続の規定が適用されるか否かについて実務に混乱が見られる中で,最高裁判所として,原則として代襲相続の規定は適用されない旨の判断をした点に重要な意義があります。

2 「相続させる」遺言の性質
 遺言書を作成する際,遺産を特定の相続人に与えるために「遺言者の全財産は○○に相続させる。」,「遺言者の下記財産は○○に相続させる。」といった遺言がされることがあり,「相続させる」遺言と呼ばれます。
 遺産を特定の人物に与える方法としては他にも「遺贈」(民法986条以下)という手段がありますが,最高裁判所は,「相続させる」遺言について,「遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである」(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁。傍点は筆者による。)として,「遺贈」とは区別しています。
 そして,「相続させる」遺言は,贈与としての性質を持つ「遺贈」とは異なり,相続人に対する遺産分割方法の指定(民法908条)であることから下記のメリットがあるとされ,比較的よく利用されています。
(1) 不動産の相続の場合,登記を具備しなくても第三者に対抗できる。
(2) 不動産の相続の場合,相続人単独で登記申請をすることができる。
(3) 農地の相続の場合,農業員会又は知事の許可を取る必要がない。
(4) 借地権又は借家権の相続の場合,賃貸人の承諾を得る必要がない。

3 代襲相続
 代襲相続とは,例えば,父親(被相続人)よりも先に長男(推定相続人)が死亡してしまった場合に,長男の子が長男の地位を代襲して相続人となるという制度です(民法887条2項)。
 「遺贈」は贈与であって相続ではありませんから,代襲相続の規定が適用されることはありませんが,「相続させる」遺言は,相続人に対する遺産分割方法の指定として理解されていますので,代襲相続の規定が適用されると考える余地があります。
 仮に「相続させる」遺言に代襲相続が適用されれば(代襲相続適用説),父親(遺言者)が長男(推定相続人)に全財産を「相続させる」遺言をしていた場合に,父親よりも先に長男が死亡してしまったときは,長男の子が,長男の地位を代襲して全財産を相続できることになります。

4 代襲相続適用説の台頭
 代襲相続適用説は,以前はそれほど一般的な見解ではありませんでしたが,東京高判平成18年6月29日判時1949号34頁が代襲相続適用説に立った判断をしたあたりから,有力に主張されるようになり,現役の家庭裁判所裁判官が執筆した書籍にも「(「相続させる」遺言に)相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが,代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり,相続人間の衡平を損なうことなく,被相続人の意思にも合致することは,法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。」(片岡武『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』346頁(日本加除出版,初版,2010)と記載されるほどでした。

5 本判決の判断理由
 しかしながら,本判決は,遺言者が,A・B2名の子の内,Bに自己の全財産を「相続させる」遺言をした後,遺言者よりも先にBが死亡した事案において,「相続させる」遺言は,「当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,・・・当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはない」と述べ,原則として, 「相続させる」遺言には代襲相続の規定は適用されないとの判断を下し,代襲相続適用説を否定しました。
 その実質的な理由は,判例時報等に掲載された最高裁判所の担当調査官解説が非常に分かりやすいのでご紹介します。
「例えば,長男に全ての遺産を相続させるという遺言をしているときに遺言者より先にその長男が死亡した場合に,遺言者が,長男の複数の子が法定相続分に従って遺産を取得することを望んでいたのか,そのうちの一人の子,例えば長男の長男に承継させることを望んでいたのか,あるいは,そもそも,その場合には長男の子ではなく自分の二男に相続させることを望んでいたのかは,事案により様々であるといえる。したがって,遺言者の意思が不明であるときに,『相続させる』と指定された相続人の子に代襲相続をさせることが当然に遺言者の一般的意思にかなうということはできず,そうであれば,遺言の効力発生時に『相続させる』と指定された相続人が存在しなければ,その遺言は効力を生じないと解するのが無理のない考え方であると思われる。」

6 結びに代えて
 遺言書の解釈は,遺言者の真意を探求する作業です(最判昭和58年3月18日家月36巻3号143頁参照)。「相続させる」遺言を残した遺言者の真意は果たしてどのようなものでしょうか。
 例えば,遺言者が家業を引き継がせるために長男に「相続」させるケースや,先祖伝来の土地を散逸させないように長男に「相続」させるケースを想定してみれば,上記調査官が述べるように「事案により様々」としか言いようがありません。それにもかかわらず,代襲相続の規定を適用してしまうと,遺言者の真意に反するおそれが高くなります。
 したがって,「相続させる」遺言に,一般的に代襲相続の適用を認める代襲相続適用説はやはり行き過ぎた考えというべきで,本判決の判断は極めて常識的なものといえるでしょう。
 今後は,「相続させる」遺言に代襲相続の規定を適用させたい場合,すなわち,財産を相続させたい特定の推定相続人が自分よりも先に死亡した場合に,当該推定相続人の法定相続人に相続させたいという場合には,遺言書に,例えば「遺言者の下記財産は○○に相続させる。○○が遺言者と同時に又は遺言者よりも先に死亡したときは,下記財産は○○の子に相続させる。」等と記載しておく必要があります。既に遺言書を作成している方は,この点に注意して,ご自身の遺言書をご確認されてはいかがでしょうか。
 また,最高裁は,特段の事情がある場合には代襲相続される余地を残しておりますので,既に「相続させる」遺言をされた遺言者がお亡くなりになられている場合であっても,直ちに諦める必要はありません。一度弁護士にご相談ください。
  • トピックス
  • 法律コラム
  • 関連リンク