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2021年06月10日
債権回収・保全     労働関係     知的財産権関係
一般民事関係     刑事関係

弁護士 : 久保井 聡明

久保井L⇔O通信21.5.10-5.31(除斥期間の起算点最高裁判決,デジタル改革関連法の成立,奨学金,保証人の返済の半額は不当利得との判決,ストーカー規制法改正,大阪弁護士会の地方創生・中小企業支援ウェビナー,図書館が蔵書の一部をメール送信できる法改正,見回り隊と偽装請負)

140. 【除斥期間の起算点最高裁判決】21.5.10
(1)さて、最高裁第2小法廷は、21.4.26、「乳幼児期に受けた集団予防接種等 によってB型肝炎ウイルスに感染しHBe抗原陽性慢性肝炎の発症,鎮静化の後 にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したことによる損害につき,HBe抗原陽性慢 性肝炎の発症の時ではなく,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症の時が改正前民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる」との判決を下しました。控訴審が 除斥期間の経過を理由として請求棄却していたのを破棄して差し戻したものです。

(2)この点、今回の判決は、過去のいくつかの最高裁判決を参照して、「民法 724条後段所定の除斥期間の起算点は,「不法行為の時」と規定されており、 加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には,加害行為の時がそ の起算点となると考えられる。しかし,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が 害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病に よる損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了 してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は 一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである」と述べたうえで、上記(1)のとおりの判断をしました。

長い潜伏期間を経て症状が出てくるケースがありますが、今回の判決はそのよう な被害者を救済するものとなりそうです。
141. 【デジタル改革関連法の成立】21.5.13
さて,報道されていますように,昨日(21.5.12),デジタル改革関連6法案が可 決成立しました。多くの法律改正が一括で行われているため,非常にわかりにく い感じがします。下記が政府の説明している全体像です。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/dejigaba/dai14/siryou1.pdf

大きなところでは,次のような点があるようです。

①デジタル社会形成基本法案
→デジタル社会の形成による我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な 生活の実現を目的
②デジタル庁設置法案
→内閣直轄組織でデジタル大臣のほか,デジタル監という特別職を置き国の情報 システム,地方共通のデジタル基盤,マイナンバー,データ利活用の推進
③デジタル社会形成関連法律整備法
→個人情報関係の3つの法律を一本に統合し,自治体の制度についても全国的な 共通ルールにする,そのうえで所感を個人情報保護委員会に一元化
→押印書面手続の見直し(押印・書面交付等をもとめる48法律を改正)
④公的給付支給の迅速・確実実施のための預貯金口座の登録
→希望者にマイナポータルからの登録,金融機関窓口からの口座登録など
⑤預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理に関する法律
→本人同意を前提に,一度に複数の預貯金口座への付番
⑥地方公共団体情報システムの標準化に関する法律

今回のコロナ禍によって日本社会の世界基準から見たデジタル化の遅れが露呈し ました。その意味では必要な改正も多くあるように思います。他方,多くの法律 改正が一括で行われているため,個々の法律改正の中に,個人情報保護の観点か ら問題をはらんでいるものも少なくないのでは,とも指摘されています。私もま だほとんど理解できていませんので,これから勉強しなければ,と思います。

142. 【奨学金,保証人の返済の半額は不当利得との判決】21.5.17
さて,報道されていますように,去る21.5.13,札幌地裁は,奨学金の返済を巡 り、半額しか支払い義務がないのに全額の返済を保証人に求めたのは違法とし て、北海道小樽市の元高校教員の男性(75)と札幌市の女性(68)が日本学生支 援機構(横浜市)を相手取り、過払い分の返還などを求めた訴訟で,半額を超え る分については同機構の不当利益と認め、過払い分計約139万円の支払いを命じ ました。

この点,日本学生機構は、奨学金を貸し付けるにあたって,連帯保証人と保証人 を1人ずつ必要としていました。民法では,連帯保証人は全額の支払い義務を負 うことになっていますが、単なる保証人には連帯保証人を含めた人数で割った額 しか返済義務がない,とされています(分別の利益)。

【民法】
(数人の保証人がある場合)
第四百五十六条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為に より債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。

(分割債権及び分割債務)
第四百二十七条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示 がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又 は義務を負う。

 この事件で原告側は民法の「分別の利益」を知らず、返済額を余分に支払った と主張し,日本学生機構は,保証人から申告がない限り、「分別の利益」の効果 は発生せず全額分の保証債務があると反論していたようです。この点について判 決は,原告側の言い分を認め,過払い分計約139万円を「不当利得」と結論づけ たようです。

同種事案は各地で起こされており,一定の影響がありそうです。なお,商売の関 係で複数の人が保証をすることがありますが,この場合には,通常は連帯保証人 と契約書に明記されていることが多いですし,もし明記されていなかったとして も,下記の商法の規定で,連帯保証となります。

【商法】
(多数当事者間の債務の連帯)
第五百十一条 数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって 債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。
2 保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたも のであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別 の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負 担する。

143. 【ストーカー規制法改正】21.5.19
さて,bcc通信9(20.8.3),51(20.10.9)で取り上げていたストーカー規制法 の改正(GPS悪用対策)が昨日(21.5.18)の国会で成立した,との報道がさ れています。司法も国会も,憲法の三権分立にしたがって役割を果たした,とい うことと思います。

【bcc51】の配信内容
さて,オンライン通信9(20.8.3・GPSと「見張り」最高裁判決)で,最高裁が、 2020年7月30日、全地球測位システム(GPS)の機器を相手の車に勝手に取り付け て居場所を把握するのが,ストーカー規制法の禁じる「見張り」に当たるかどう かが争点となった2事件の上告審判決で、「見張り」に該当しない、との初判断 を示したことをご紹介した際,「罪刑法定主義」から無罪となったけれども, 「GPSを取り付けて居場所を把握することも、本来は許されるべきことではあり ませんから、今度は、国会がちゃんと法律改正をして役割を果たす番です。 」 と書きました。

この点,今日の日経新聞では,警察庁が,「9日からは法律の専門家らを交えた 検討会を開き、GPSを悪用したストーカー行為の法規制について法改正も視野に 入れた議論を始める。」と報道しています。実態に即した法改正がなされること を望みたいと思います。

144. 【大阪弁護士会の地方創生・中小企業支援ウェビナー】21.5.25
さて,大阪弁護士会の副会長に就任し2カ月近くが経ちましたが,やはり色々忙 しく,bcc配信の頻度も少し落ちてしまいました。申し訳ありません。
今日は,大阪弁護士会主催のウェビナーのご案内です。「地方創生・中小企業支 援」をテーマにしており,近畿財務局,日本公認会計士協会近畿会と共催です。 事業経営をされている方,また中小企業経営者にアドバイスをされる立場の方な どにお薦めです。
下記の大阪弁護士会のHPから事前申込みができますので,興味のある方はご参 加ください。
https://www.osakaben.or.jp/event/2021/2021_0608.php


145. 【図書館が蔵書の一部をメール送信できる法改正】21.5.27
さて,昨日(21.5.26)、図書館が蔵書の一部分をメールなどで利用者に直接送 れるようにする改正著作権法が、参院本会議において全会一致で可決、成立しま した。利用者にとっては利便性が高まる一方、行き過ぎると出版不況に拍車をか けかねません。そこで、①国会図書館が絶版になっている資料等をメール送信で きる、②各図書館も、調査研究目的で、正規の電子出版等の事業を阻害しない範 囲で、著作物の一部分を送信できるものの、その場合、図書館設置者が権利者に 補償金を支払う必要がある、という仕組みになっているようです。下記、法律の概要です。

https://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_000013222_1.pdf

146. 【見回り隊と偽装請負】21.5.31
さて、朝日新聞(21.5.30)の社会面に、大阪府が府内の自治体と協力し、飲食 店などの新型コロナウイルス対策を確認した訪問調査をめぐり、一部の自治体か ら偽装請負の恐れがあるのでは、と疑問の声が上がった、との記事がありまし た。記事による、この調査は、コロナの感染拡大を受け、「まん延防止等重点措 置」が適用された4月5日から始まったようです。当初は府と大阪市の職員が2人 1組で活動していたところ、同月中旬から民間業者の調査員に業務委託するよう になったようです。ただ民間の調査員だけでの調査はずさんとの批判を受け、 府・市町村職員と民間調査員が2人1組で調査をする態勢を整えた、という経過の ようです。しかしながら、一部の市町村側から、業務委託先の民間調査員に委託 元の府側が直接指示を出せば、偽装請負にあたるのではないか、という指摘があ り、府職員が民間調査員に直接具体的指示を出したりしないよう、呼び掛けた、ということです。
 
 この点、「偽装請負」とは、書類上、形式的には請負(委託)契約ですが、実態 としては労働者派遣であるものを言い、労働者派遣法等に定められた派遣元(受 託者)・派遣先(発注者)の様々な責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面 など基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちで、違法とさ れています。
そこで、請負と労働者派遣の違いが重要になりますが、請負とは、「労働の結果 としての仕事の完成を目的とするもの」をいい、労働者派遣との違いは、発注者 (今回で言えば大阪府)と受託者(今回で言えば民間業者)の労働者との間に指 揮命令関係が生じない、ということがポイントです。労働者(今回で言えば民間 調査員)の方から見ると、自分の使用者(今回で言えば民間業者)からではな く、発注者(今回で言えば大阪府の職員)から、見回り中に、直接、業務の指示 や命令をされると、「偽装請負」にあたる可能性がある、と言えるでしょう。

実際に請負か労働者派遣かの判断にあたっては、色々な基準から判断されること になります。下記、この点についての厚労省のパンフレットです。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000078287.pdf

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