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2018年05月15日
一般民事関係

弁護士 : 森 佳介

民法(債権法)改正のポイント ~売主の担保責任~

1 はじめに

  昨年6月2日に公布された「民法の一部を改正する法律」が,2020年4月1日から施行されます。新民法における重要な改正点は多数ありますが,本稿では,売買の分野における売主の担保責任について,改正のポイントをご紹介します。

  以下,現行法の条文を指す場合には「現」,改正法の条文を指す場合には「新」の文字を,条文番号の冒頭に付します。

 

2 改正のポイント

  売主の担保責任に関する改正のポイントとして,以下の4点を挙げてご説明します。

 ① 担保責任の法的性質が,法定責任から債務不履行へと変更されました。 

 ② 担保責任の要件が,「隠れた瑕疵」から「契約不適合」へと整理されました。

 ③ 担保責任の効果につき,法的責任が債務不履行へと変更されたことに伴う変更がされました。

 ④ 期間制限につき,1年以内に「通知」をすれば足りることとされました。

 

3 担保責任の法的性質

 (1) 現行法の状況 ―特別の法定責任―

 現行法における伝統的通説では,売主の瑕疵担保責任は,債務不履行責任ではなく,特別の法定責任であると理解されています。これは,「特定物売買において,瑕疵ある特定物の給付も,瑕疵のない完全な履行である」という考え(このような考えを「特定物ドグマ」といいます。)に基づくものです。特定物ドグマによると,特定物売買(「この物」を売買する契約)においては,売主は,「この物」を給付する義務を負うにとどまる(「瑕疵のないこの物」を給付する義務までは負わない)ため,たとえ「この物」に瑕疵があったとしても,「この物」を給付している以上,売主には債務不履行責任が認められないことになります。

 しかし,「この物」に瑕疵があった場合に,買主が売主に対して何らの責任追及ができないとすれば,瑕疵がないと信頼して「この物」を購入した買主が,不利益を被ってしまうことになります。法定責任説によれば,このような場合に,対価の不均衡を是正し,買主の信頼を保護するために法律が特別に定めた売主の責任が,瑕疵担保責任であるという理解になります。

 法定責任説では,瑕疵担保責任は特定物売買についてのみ適用されることになり,原則として,不特定物売買(一定の種類に属する物を売買する契約)への適用はありません。不特定物売買では,売主に「瑕疵のない物を給付する義務」が課されているため,瑕疵ある物の給付は,債務不履行と評価されることになるためです。

 

 (2) 改正法の内容 ―債務不履行責任―

 これに対し,改正法では,売主の担保責任の法的性質は,債務不履行責任であるとされました(新562条1項参照)。これは,特定物売買においても,当事者間で「瑕疵のないこの物を引き渡すこと」を債務の内容として合意することは可能であるため,それに反して「瑕疵のあるこの物」を給付した売主には債務不履行責任が認められるとの考えに基づくものです。また,その法的性質が債務不履行責任であるため,売主の担保責任に関する規定は,不特定物売買にも適用されることになります。

 担保責任の法的性質が債務不履行責任であると整理されたことに伴い,改正法においては,主に効果面において実質的な改正がなされています。

 

4 担保責任の要件

 (1) 現行法の状況

 現行法における瑕疵担保責任の要件は,売買の目的物に「隠れた瑕疵」があることです(現570条)。「隠れた瑕疵」があるかについては,目的物が有すべき品質・性状等を確定したうえで,実際に引き渡された目的物が当該あるべき品質等に適合しているか,という観点から判断されるという理解が一般的です。

 (2) 改正法の内容

 改正法においては,「引き渡された目的物が,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に,売主が一定の担保責任を負うこととされています(新562条1項)。この部分の改正については,現行法における「隠れた瑕疵」の概念を明確化する趣旨であり,担保責任の要件については,改正の前後で実質的な変更はないものと理解されています。

 

5 担保責任の効果

 (1) 追完請求

 ・現行法  ×

 法定責任説の立場では,「瑕疵あるこの物」を給付した売主に債務不履行(不完全履行)はありませんので,買主は,売主に対し,債務不履行責任の追及の一環としての追完請求(修補請求,代替物引渡請求,不足分引渡請求)をすることはできません。また,買主の追完請求権を特別に認める法律上の規定もありません。

 ・改正法  ○

 改正法のもとでは,売主の担保責任の法的性質は債務不履行責任であるとされているため,買主は,売主に対し,債務不履行責任の追及の一環としての追完請求(修補請求,代替物引渡請求,不足分引渡請求)をすることができます(新562条1項本文)。

 ただし,「売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる」とされており(同項但書),買主の追完請求権には一定の制約が課せられています。この点,実務への影響として,「買主に不相当な負担を課するものでないとき」に当たるかを巡る争いが生じることが想定されます。なお,本条は任意規定であるため,売主による異なる方法による履行の追完を特約により排除することは妨げられません。

 

 (2) 解除

 ・現行法  ○

 現行法のもとでは,目的物に隠れた瑕疵がある場合において,瑕疵があるために「契約をした目的を達することができないとき」は,買主は,契約を解除することができるとされています(現570条,566条1項)。このように,買主が契約を解除することができるのは,契約目的不達成の場合に限られています。

 ・改正法  ○

 改正法では,目的物に契約不適合状態がある場合における買主の解除権について,特別の規定を置いていません。この点,改正法のもとでは売主の担保責任の法的性質は債務不履行であるとされているため,買主は,債務不履行解除の一般規定(新541条,542条)に基づき,契約を解除することができます。

 改正法のもとでの契約解除では,現行法のような「契約をした目的を達することができない」という制約は課されていません。ただし,解除の一般規定に従うため,催告解除の場合には,「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は,解除をすることができないという制約は課されています(新541条但書)。いかなる場合に軽微な不履行(新541条但書)と評価されるかは必ずしも明確ではありませんが,現行法における「契約目的不達成」の制約よりは,軽度の制約であると理解されます。

 

 (3) 損害賠償請求

 ・現行法  ○(信頼利益のみ)

 現行法のもとでは,目的物に隠れた瑕疵がある場合,売主は,買主に対し,損害賠償義務を負うものとされています。(現570条,566条1項)。

 法定責任説の立場では,この場合の損害賠償は,信頼利益の賠償(瑕疵を知らなかったことによって買主が被った損害)にとどまり,履行利益の賠償(本来の履行がなされていれば得られていたであろう利益を得られなかったことに係る損害)までは認められないと解されています。

例えば,売買目的物である自動車に隠れた瑕疵があったために走行不能であったというケースを例にすると,自動車を駐車するために新たに契約した駐車場代相当額は信頼利益であり,自動車を第三者に転売することによって得られていたであろう利益は履行利益であると説明されます。

 ・改正法  ○(履行利益を含む)

 改正法では,解除の場合と同様,目的物に契約不適合状態がある場合における買主の損害賠償請求権について特別の規定はなく,損害賠償請求の一般規定(新415条)に基づく損害賠償請求権が認められます。したがって,一般の債務不履行責任に基づく損害賠償請求と同様,履行利益の賠償まで請求することができることになり,現行法よりも損害賠償請求が認められる範囲が拡大することになります。

 

 (4) 代金減額請求権

 ・現行法  △

 現行法では,売主の担保責任として,買主からの代金減額請求が認められる場合は,他人物売買及び数量不足の場合に限られています(現563条1項,565条)。目的物の性質に関する瑕疵の場合には,買主の売主に対する代金減額請求権は認められていません。

 ・改正法  ○

 これに対し,改正法では,代金と売買目的物の対価的均衡を維持するという観点から,契約不適合の場合につき,買主による代金減額請求を一般的に認める旨の規定を新設しました(新563条)。これにより,改正法のもとでは,買主は,同条の規定の要件のもとで,売主に対し,代金減額請求をすることができます。

 なお,代金減額請求権の法的性質は損害賠償請求権ではなく,売主の無過失責任です。

 

6 期間制限

 (1) 現行法の状況

 現570条・566条3項により,瑕疵担保責任の追及は,「買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない」とされています。そして,判例の立場では,買主は,1年以内に,瑕疵の内容を具体的に特定するとともに,損害賠償請求の場合には損害額の根拠を明らかにしなければならないとされています。

(2) 改正法の内容

 これに対し,改正法は,種類・品質に関する契約不適合に係る責任追及の期間制限につき,「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知」すれば足りることとしました(新566条)。したがって,改正法のもとでは,1年以内に不適合の事実を通知することで足りることになり,瑕疵の内容を具体的に特定するとともに,損害賠償請求の場合には損害額の根拠を明らかすることまでは不要となりました。

 ただし,消滅時効の一般準則の適用は排除されないため,客観的起算点として,権利を行使することができる時から10年を経過した場合には,消滅時効が成立することになります(新166条1項2号)。この場面における「権利を行使することができる時」とは,目的物の引渡時を指します(最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁)。

 なお,上記の1年の期間制限は,数量・権利に関する契約不適合の場合には適用されません。これらの契約不適合に係る責任追及の期間制限については,消滅時効の一般準則(新166条1項)によることになります。

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