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コラム詳細

2018年03月01日
労働関係

弁護士 : 船山 敦生

障害者雇用率制度の一部変更について

第1 はじめに

我が国における障害者雇用に関する制度は,障害者の社会参加と平等を促し,共生生活を実現することを目的として整備されてきました。

そして,本年(平成30年)4月1日より,障害者雇用率制度が一部変更されます。本稿では,かかる直前に迫った変更事項,具体的には,障害者雇用率の引き上げと精神障害者の対象化について概説し,その後,事業主としての今後の具体的対応について触れていきます。

 

第2 障害者雇用率の引き上げについて

1 障害者雇用率制度とは

障害者雇用率制度とは,身体障害者及び知的障害者について,常用労働者[1]の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し,事業主等に障害者雇用率達成義務を課すことにより,これら障害者に一般労働者と同じ水準で常用労働者となり得る機会を保障する制度をいいます(厚生労働省「障害者雇用率制度の概要」)。

そして現状は,障害者雇用率2.0%の障害者雇用率達成義務が課せられており(障害者雇用促進法43条1項,2項,同法施行令9条),常用労働者数50人以上の規模の事業主は,1人以上の身体障害者又は知的障害者を雇用する必要があります[2]。そして,その事業主は,身体障害者又は知的障害者である労働者の雇用状況を毎年1回公共職業安定所に報告しなければなりません(同法43条7項,同法施行規則7条,8条)。

障害者雇用率達成義務を履行しない事業者に対しては,行政指導がなされるほか,常用労働者100人超の場合には,障害者雇用納付金として,不足する人数1人あたり1カ月5万円が徴収されます(同法53条,54条,55条,同法施行令17条)。

 

2 引き上げの内容

本年4月1日から,障害者雇用率は2.2%に引き上げられることになります。   これに伴い,同制度の対象事業主は,常用労働者数50人以上から45.5人以上に変更されます。すなわち,常用労働者45.5人以上の規模の事業主が1名以上の障害者(身体障害者,知的障害者のほか,第3で述べるように精神障害者も対象となります)を雇用する必要が生じます。

 

3 注意点

常用労働者数45.5人以上,50人以下の事業主の方は,特に注意しなければなりません。本年4月1日より,突然にして障害者雇用率達成義務の対象事業主となりえます。

また,平成33年4月までに,障害者雇用率はさらに0.1%引き上げられることが予定されており,その際には,対象事業主の範囲も常用労働者数43.5人以上に変更されることとなります。これらの具体的な時期は,今後,労働政策審議会において議論される見込みであり,留意が必要です。

 

第3 精神障害者の対象化

第2の1で述べたように,現在の障害者雇用率制度は,身体障害者及び知的障害者を対象とした設計となっています。

これに対し,本年4月1日からは,障害者雇用率制度の対象として,精神障害者が追加されます。

また,同日より,精神障害者である短時間労働者のカウント方法も変わります[3]

 

第4 今後の対応

1 事業主としての障害者の把握の必要性と,把握に際しての配慮の必要性

本年4月1日の改訂により,あるいは平成33年4月までの改訂を見越し,事業主として,障害者である労働者の人数,障害種別,障害程度等を把握・確認する必要がある方もいらっしゃると思います。

しかし,労働者自身にとって障害の有無や程度は高度なプライバシー事項であるため,これを事業主がみだりに聞き出すことは慎むべきであり,一定の配慮が必要です。

以下では,具体的な障害者の把握方法についてご説明します。なお,この点については厚生労働省「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が詳しく,事業主の方々に向けた同「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要―事業主の皆様へ―」も作成されています。そこで,本稿もこれらに沿って,ポイントを説明させて頂きます。

 

2 具体的対応

(1)採用段階での障害者の把握

採用決定前から障害の有無を把握する場合としては,①合同面接会の機会に障害者専用求人に応募する等,採用段階から本人が自ら障害者であることを明らかにしている場合と,②採用面接時等に,事業主が応募者に対して障害の有無を照会する場合があります。

ただし,②の場合に障害の有無を照会するのは,特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠な場合に限られ,その際には,目的を示して本人に障害の有無を照会しなければならないとされます。

いずれにせよ,採用決定前から障害者であることを把握している者を採用した場合は,採用決定後に,その労働者に対して障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的等の事項を明示[4]した上で,本人の同意を得て,その利用目的のために必要な情報を取得します。また,採用決定後の確認手続は,情報を取り扱う者を必要最小限とするため,企業において障害者雇用状況の報告等を担当する人事担当者から直接本人に対して行うことが望まれます。

 

(2)採用後の障害者の把握

採用後に障害者の把握・確認を行う場合には,雇用する労働者全員に対して,画 一的な手段で申告を呼びかけることが原則であり,個人を特定して照会を行うことは例外的な場合に限られます。

ア 原則―労働者全員に対する呼びかけ―

労働者全員に対して申告を呼びかける場合には,メールの送信や書類の配布等画一的な手段で行うべきです。

また,申告を呼びかける際には,障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的等の事項(脚注4参照)に加えて,「この呼びかけに対する回答を求めているのは業務命令ではないこと」を明らかにすることが望まれます。

イ 例外―個人を特定しての照会―

障害者である労働者本人が,職場において障害者の雇用を支援するための公 的制度や社内制度の活用を求めて,企業に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は,個人を特定して障害者手帳等の所持を照会することができます。

なお,この際にも,照会は,企業において障害者雇用状況の報告等を担当する人事担当者から直接本人に対して行うことが望まれますし,利用目的等の事項(脚注4参照)を明示すべきです。また,照会に対して,障害者手帳等の所持を否定した場合や,照会に対する回答を拒否した場合に,回答するよう繰り返し迫ったり,障害者手帳等の取得を強要してはいけません。

 

(3)把握した情報の管理

当然,事業主は,障害者雇用状況の報告書等の漏洩防止等,情報の安全管理のために必要な措置を講じなければなりません。

また,情報を管理する者の範囲を必要最小限に限定し,情報管理者の守秘義務等を定めた個人情報保護法の取扱いに関する内部規定を整備すること等の措置も講じなければなりません。

 

第5 おわりに

障害者雇用率制度の一部変更と事業主としての対応について述べてきましたが,これも法的設計の一部分に過ぎません。

新制度の施行について不安を覚えられる事業主の方は,是非お近くの専門家にご相談下さい。

 

※本稿では,厚生労働省ホームページの表記に従い,「障害者」の文字を使用しました。

 

以上



1)原則,1年以上継続して雇用される者(その見込みのある者を含む)のうち,1週間の所定労働時間が20時間以上の者をいいます。

2)なお,当該企業の雇用者数をカウントするにあたっては,次の事項に留意する必要があります。

・短時間労働者は,1人を0.5人としてカウントします。

・重度身体障害者及び重度知的障害者は,1人を2人としてカウントします。

・短時間の重度身体障害者,重度知的障害者は,1人としてカウントします。

3) 精神障害者である短時間労働者で,①新規雇入れから3年以内の方又は精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の方であり,かつ,② 平成35年3月31日までに雇い入れられ,精神障害者保健福祉手帳を取得した方については,原則として,1人をもって1人とカウントすることになります。(現行の脚注2によれば,1人をもって0.5人とカウントすることになります。)もっとも,このカウント方法にも例外はあります。

4)次の1から6の事項について明示すべきであり,7については明示することが望まれます。

 1 利用目的(障害者雇用状況の報告,障害者雇用納付金の申告等)

2 1の報告等に必要な個人情報の内容

3 取得した個人情報は,原則として毎年度利用するものであること

4 利用目的の達成に必要な範囲内で,障害等級の変更や精神障害者保健福祉手帳の有効期限等について確認を行う場合があること

5 障害者手帳を返却した場合や,障害等級の変更があった場合は,その旨人事担当者まで申し出てほしいこと

6 特例子会社又は関係会社の場合,取得した情報を親事業主に提供すること

7 障害者本人に対する公的支援策や企業の支援策

 

 

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