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2017年02月21日
相続関係

弁護士 : 今村 峰夫

夫婦が同時期に遺言書を作成する場合の留意点

1.夫婦で話し合って遺言内容を決め、同時期に各々遺言書を作成するケースが増えている。公正証書遺言を利用するのが多いようだが、自筆証書遺言でも行われている。

2.動機は様々である。夫婦の間に子がいない場合で、一次相続で法定相続人である兄弟姉妹には相続させず配偶者だけに相続させ、二次相続では当該夫婦と親しくしている特定の甥や姪に遺贈することを夫婦で確認するケースもあれば、複数の子がいる夫婦の各々にかなりの資産があり、二人の財産を複数の子に全体としてバランスよく承継させたいというケースもある。

3.夫婦が同時期に遺言書を作成する場合の留意点は3つある。①共同遺言禁止、②配偶者が先に亡くなった場合に、配偶者に相続させる予定だった財産を誰に承継させるかの検討、③配偶者が先に亡くなった場合に、同人の遺言で配偶者から相続する財産についても遺言の対象にすることの検討の3点である。

①は、民法975条で「遺言は、2人以上の者が同一の証書でこれをすることができない」とされているので、夫婦であっても同一の遺言書で遺言をすることは禁止されており、夫婦は個別に遺言書を作成する必要があるという点である。

②は、夫婦のうちどちらが先に亡くなるかわからないので、例えば、「遺言者の妻に○○○を相続させる。遺言者と同時もしくは遺言者より先に妻が死亡した場合には、○○○を遺言者の長男に3分の2、長女に3分の1の割合で相続させる。」というように予備的遺言を書いておいた方がよいという点である。遺贈については、民法994条の明文で遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じないとされているが、明文のない『相続させる』という遺言についても、最高裁平成23年2月22日判決は「当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」旨を判示し、原則効力否定説を採用している。よって、予備的遺言を作成していない場合、先に亡くなった妻に相続させる財産についての遺言は効力がなく、その結果、妻死亡後に改めて遺言書を作り直さない限り、遺言分割協議を行なう必要が生じてしまうので、予備的遺言の検討を行うべきである。

③については、わかりにくいので、具体例を挙げる。例えば、夫婦の間に3人の子がいた事案で、夫婦のそれぞれにまとまった財産があり、夫婦各々が法定相続分を意識して、遺産分割方法を指定する遺言書を同時期に作成していた。二人の遺言書は、どちらも各自の固有財産を列挙して、法定相続分に合わせて分割方法を指定していた。また列挙漏れがあっては困ることから「その他一切の財産については、配偶者が相続し、配偶者が先に死亡しているときは長女が相続する。」との文言がおかれていた。さらに配偶者が先に亡くなっていた場合、②の観点から、配偶者に相続させるべき財産について子3人に等分に相続させる内容の予備的遺言文言も記載されていた。一見すると、完璧なように思える。このような事案で、一方の配偶者が先に亡くなり、その後、もう1人も亡くなった場合、後から亡くなった配偶者が先に亡くなった配偶者の遺言書で相続した財産(法定相続分に合わせ、先に亡くなった配偶者の固有財産の2分の1の財産)については、後から亡くなった配偶者の遺言には直接言及した文言はなく、遺言書を形成的に読む限り、遺言書に具体的に列挙されていない「その他一切の財産」として長女が一人で相続することになってしまう。遺言書の解釈として「その他一切の財産」は、遺言書作成当時の遺言者固有の財産を想定していて、その後、先に亡くなった配偶者の遺言書で相続した財産は含まず、それらは遺産分割協議の対象になると争う余地がないわけではないが、原則論からいえば遺言書における「その他一切の財産」の意味は、遺言時の財産ではなく相続時の財産で遺言書作成後に取得した財産も含む文言である。いずれにしても紛争になるのは必至であり、禍根を残すことになる。この結果は、複数の子にバランスよく二人の財産を承継させたいと思って、夫婦二人で話し合って同時期に遺言書を作成した意図に反している。同時期に夫婦で話し合って遺言書を作成しているのであるから、もう1人の配偶者の遺言内容を互いに把握しているはずである。お互いに配偶者が先に亡くなった場合に、配偶者から相続する財産についても自分の遺言書で誰にどのように相続させるか言及しておくことは難しいことではない。ここで指摘した不合理な結果は、一方の配偶者が亡くなった時点で、亡くなった配偶者から相続した財産を加えて残された配偶者が遺言書を作り直すことでも解消できる。しかし、完璧な遺言書を作成したと思い込み、この問題に気付いていない当事者に遺言書の作り直しは期待できない。

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