名古屋高裁平成22年1月20日判決について – 久保井総合法律事務所

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2015年02月18日
コラム

弁護士:今村 峰夫

名古屋高裁平成22年1月20日判決について

1 顧問先の法律相談で、表題の判決に接した。事例判決のためか、判例集に未登載である(ウエストローと判例秘書では検索可)。判決の射程を含めて、興味深い内容に思えるが、あまり議論の対象になっていないので、ご紹介する。

2 土地売買に先立ち売主(地方住宅供給公社)から買主(個人)に交付されたパンフレットに「造成地のため地盤調査後、地盤改良が必要となる場合があります。」との記載(以下、本件記載といいます)があった。買主が、土地購入後、当該地盤が軟弱で建物建築に適さず、地盤改良工事が必要だったとして、売主の説明義務違反、瑕疵担保責任に基づき、地盤改良工事費用と遅延損害金を請求した。
 原審は、本件記載を重視し、買主は土地が造成地であることを知っており、代金を高額と考えていなかったことが窺われるから、土地の購入の適否を判断するのに必要な情報は提供されていたとして、売主の説明義務違反を否定し、土地の地盤は強度が不十分といえなくはないが、建物にはペントハウスやエレベータ―があり、基礎をより強固にする必要性が窺われるうえ、より高度なDIP工法ではなく、湿式柱状改良工法による地盤改良でも不具合は生じていないから、土地の地盤強度は買主の想定の範囲内にあったとして、売主の瑕疵担保責任も否定した。
 その控訴審判決である表題の判決は、土地には地盤改良工事を要するという瑕疵があり、買主が売買契約時に本件記載に十分留意しなかった面はあるものの、その記載自体あいまいで、土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることを明示するものではなく、売主すら地盤改良工事を要するかもしれない程度のあいまいな認識しか有していなかったことを踏まえると、買主が、土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることを知らなかったことに過失があるとはいえず、隠れた瑕疵があるとして、原判決を取り消し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を認めた。なお、この判決は、本件記載があいまいである根拠として、本件記載が全体で30頁近くあるパンフレットのいくつかの内容のうちの1行にすぎないこと、同じ団地内で売主が販売した区画のうち、地盤改良工事が必要となったものが相当数に上る等の地盤改良の必要性が高いことを窺わせる具体的記載がないこと、「買受後、買主において地盤調査をして下さい。」等の買主に地盤調査を依頼し、あるいはこれを義務づける旨や、地盤改良が必要となった場合の費用が買主負担となるから、販売価格が低額になっている旨や瑕疵担保請求権の放棄を意味する旨の記載がないことを指摘している。

3 不動産取引に関連する訴訟の多くは、契約時に表面化していなかった不動産に関するリスクが後日表面化して、損害が生じたときに、売主・買主どちらが、その損害を引き受けるべきかという形で(場合によれば、宅建業者を巻き込んで)、争われている。売主ないし仲介業者は、将来紛争に巻き込まれないように、契約書の特約やパンフレットや重要事項説明書にリスクに関する注意書きを記載することが増えている。例えば、地盤については「本物件土地に建物を建築する際、建築を依頼する住宅メーカーから地盤・地耐力調査を要請されることがあり、その結果によっては地盤補強工事等が必要となる場合があります。地盤補強工事等については、建築する建物の構造・規模・重量及び依頼する住宅メーカーにより異なります。また、地盤補強工事等については費用が発生いたしますので、あらかじめご承知おきください。」といったものである。
 しかし、表題の高裁判決は、このような一般的・抽象的なリスク説明がなされても、地盤改良を要するということは、土地についての隠れた瑕疵であると判示した。ちなみに、地盤の問題としては、前橋地裁沼田支部平成14年3月14日判決(判例集未登載・ウエストローと判例秘書では検索可)は、土地の売主である被告(市)は、土地がかつて城の堀であり、その堀の容積も大きなものであったことからすれば、その埋立てには雑材料等が用いられていた可能性があることを把握していたことからすれば、土地の表層部にはゴミや雑材等が埋設されていることを認識し、将来、土地の地盤沈下等の影響によって宅地としての利用が困難になり得ることを予見することは十分に可能であったと認められるとして、被告は本件土地を宅地として売却するに際しては、予め地盤の地質調査を十分に行い、その調査結果を適切に買主である原告に説明すべき信義則上の義務があったとしたうえで、被告が地盤調査(地耐力調査1か所、地表面から2m20cmの試掘調査1か所)を行い、建物建築に不適な土地ではないとの調査結果を原告に説明したのは、調査・説明義務違反であるとした。なお、この件は、売買に先立ち、原告から宅地として使用可能か調べてほしいとの要求が出され、被告がこれに応じて地盤調査を約束した事案である。

4 土地の瑕疵としては、地中の埋設物や廃棄物、地盤強度、土壌汚染等が問題になっている。土壌汚染の問題については、平成15年2月の土壌汚染対策法施行により、現在の土地所有者等に土壌汚染の除去措置等に関する一定の負担が課されることになった。
 東京地裁平成18年11月28日判決(判例集未登載・ウエストローと判例秘書では検索可)は、平成16年の信託受益権の譲渡契約について、信託契約の開示事項や報告書に、土地は以前車両関係事業者が使用して、車両の解体・販売・整備を行っていたとか、被告(信託受益権の売主)は土壌調査を行った実績はなく、汚染実績や地中障害物が存する可能性がある、と記載されていた事案について、「原告(信託受益権の買主)の側において、本件土地に土壌汚染の可能性があること自体は認識していた。」としながら、「土壌汚染の有無自体は、調査をしなければ判断することができない。」「瑕疵担保責任における過失の有無の判断は売買契約締結時が基準となるものであり、その時点において原告が調査を実施することができないのであるから、過失があるとは認められない。」として、ある程度具体的にリスクの説明がなされたときでも、隠れた瑕疵であるとした。

5 では、地盤強度について、過去に当該土地が水田だったとか、堀の埋立地だったとか、ある程度具体的にリスクの説明がなされたときでも、土壌汚染についての上記東京地裁判決のように、隠れた瑕疵となるのか? 地中の埋設物や廃棄物のときも同様に考えてよいのか? さらに、これらの議論は、売主が素人で、買主が不動産業者のようなときにも妥当するのか? 瑕疵担保責任と説明義務違反は重複する部分があるが、さらに進んでどのようなケースであれば、調査義務まで負うのか? 宅建法の重要事項説明義務との関係は? など疑問が次から次へと湧いてくる。今後に議論が深まることを期待したい。