個人型確定拠出年金法に基づき、国民年金基金連合会から運営管理業務を受託している銀行は、加入申込者について、反社チェックを行うべきか? – 久保井総合法律事務所

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2016年03月15日
コラム

弁護士:今村 峰夫

個人型確定拠出年金法に基づき、国民年金基金連合会から運営管理業務を受託している銀行は、加入申込者について、反社チェックを行うべきか?

ある銀行から標題記載の質問を受けた。銀行の担当者は、ここ数年、政府による「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」の決定、全国銀行協会による暴排条項モデルの作成、全国都道府県での暴排条例の施行、金融機関における反社対応の不備に対する金融庁の行政処分等が続き、金融機関には、反社排除の実践が強く求められていることから、この質問をしたのである。

 反社取引入口対応、出口対応に関する多数の論文は存在しているが、この論点に触れたものは見当たらなかった。私は、以下の理由から、そもそも銀行は反社チェックを行う義務を負っていないし、もし、銀行が反社チェックを行い、反社に該当したことをもって加入受付を拒否すれば、国民年金基金連合会(以下、連合会という)との間の運営管理業務委託基本契約(以下、基本契約という)に違反することになると回答した。

 第1に、確定拠出年金法(施行令、施行規則を含む)には、加入者についての暴排条項に類する規定は設けられていないし、連合会が制定している個人型年金規約にも、加入時についても、途中で反社と判明した時についても、暴排条項に類する規定は設けられていない。この制度は、国民皆年金制度である国民年金を補完するものとして位置づけられていることからすれば、暴排条項に類する規定が設けられていないのは、ある意味、当然のことである。

 金融庁ガイドラインにも、確定拠出年金運営管理機関関係で、反社チェックについて直接の規定は設けられていない。そこでは、確定拠出年金運営管理機関(以下、運営管理機関という)の「行為準則、禁止行為」が列挙されているが、暴排条項に類する規定は存在していない。ただ、「行政処分を行う際の留意点」の「行政処分の基準」のところで、処分を決めるファクターの1つである該当行為の重大性・悪質性を判断する8つの要因の最後の1つとして「反社会的勢力との関与の有無」が記載されているにすぎない。この趣旨は、運営管理機関が、例えば違法な勧誘行為を行ったときに、反社を利用したといった場合に、当該行為の重大性・悪質性判断の加重要素として影響を及ぼすという意味であり、「行為準則、禁止行為」に列挙されていない以上、この規定の存在だけで、反社の加入排除を運営管理機関に求めているものとは解することはできない。

 第2に、預金や貸付について、暴排条項の効力が認められているのは、当該取引が契約自由の原則が適用される取引であるからである。ところが、個人型確定拠出年金は法律に基づく制度で、国民にとっては加入するかどうかは自由であるものの、加入対象者が法定されており、連合会に加入申込みについて諾否の自由があるとは解されず、契約自由の原則が適用される領域ではない。

 第3に、連合会との基本契約には、委託業務の範囲が明記されているが、そこでは「加入の申出及び加入者等からの届出の受理に関する事務」とあるだけで、そこに反社チェックを委託するとは規定されていない。逆に、「委任の本旨に従い、法令、個人型年金規約及び本契約を遵守し、善良なる管理者の注意をもって受託業務を処理しなければならない」、「法令、個人型年金規約及び本契約を遵守し、加入者等のため忠実に受託業務を遂行しなければならない」との規定が設けられている。運営管理業務は、銀行の固有の業務ではなく、連合会からの受託業務である。連合会からの指示がないのに、銀行が反社チェックを行い、反社に該当したことをもって、加入受付を拒否すれば、連合会に対する契約違反の問題が生じると解される。

 第4に、暴排条例は、事業者が暴力団の活動を助長し、または暴力団の運営に資することとなる利益の供与を禁止したりしているが、連合会は「事業者」に含まれるとは解されないし、個人型確定拠出年金に加入することが、暴力団の活動助長や運営に資することになるとも思えない。また、万一、暴排条例が個人型確定拠出年金までも対象にしているとなれば、暴排条例は、確定拠出年金基金法の関係に限っていえば、憲法94条の「法律の範囲内で条例を制定することができる」に反して無効ということになってしまう。