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2013年06月27日
債権回収・保全     金融関係

弁護士 : 佐藤 高志

将来債権譲渡と譲渡禁止特約について―東京地判平成24年10月4日と民法(債権関係)改正の中間試案―

1 はじめに
 (1) 将来債権譲渡の有効性
 判例上,将来債権の譲渡,すなわち,未だ発生していない将来の債権を譲渡(民法466条1項)し,予め債務者対抗要件(民法467条1項)及び債務者以外の第三者に対する対抗要件(同条2項)を具備することが認められています(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁)。将来債権の譲渡は,例えば,集合債権譲渡担保等,担保目的で債権を譲渡されるケース等でよく行われています。

 (2) 譲渡禁止特約の効力
 一方で,現行民法では,譲渡禁止特約といって,債権者と債務者が合意すれば債権の譲渡性を否定することができます(民法466条2項本文)。譲渡禁止特約に違反した場合,債権譲渡の効力は生じないとされており(大判大正4年4月1日民録21輯422頁参照),これを一般に譲渡禁止特約の「物権的効力」と呼びます。

 (3) 譲受人の信頼保護 ~善意・無重過失の譲受人の保護~
 もっとも,債権者・債務者間の合意に過ぎない譲渡禁止特約の物権的効力を貫くと,譲渡禁止特約の存在を知らずに当該債権を譲り受けた譲受人に不測の損害が生じるおそれがあります。
 そこで,このような譲受人の信頼を保護するために,民法466条2項但書は「その意思表示〔注:譲渡禁止特約のこと〕は,善意の第三者に対抗することができない。」と規定し,譲渡禁止特約の存在を知らないで債権を譲り受けた譲受人に対しては譲渡禁止特約の効力を対抗できない旨定めています。ここでいう「善意」とは,譲渡禁止特約の存在を「知らない」ことです。知らないことについて過失(注意義務違反)がある場合であっても善意者として保護されますが,重過失(著しい注意義務違反)がある場合には保護されません(最判昭和48年7月19日民集27巻7号823頁)。
 また,債権は自由に譲渡できるのが原則(民法466条1項本文)で,譲渡禁止特約はその例外であるため,譲受人の信頼を保護する観点から,譲受人が自らの「善意・無重過失」につき主張・立証責任を負うのではなく,債務者の側が譲受人の「悪意又は重過失」を主張・立証して初めて譲渡禁止特約の効力を譲受人に主張できると考えられています(大判明治38年2月28日民録11輯278頁)。

 (4) 将来債権譲渡と譲渡禁止特約の問題点

 例えば,メーカーP社が卸売業者Q社に対して自社製品を代金後払いの約定で販売する場合,代金を回収する前にQ社が倒産する等のリスクに備えて,予めQ社に対して担保を徴求することがあります。
 Q社所有の不動産等に根抵当権(民法398条の2以下)を設定するケースもありますが,そのような手堅い担保は,大抵,Q社の取引金融機関が押さえてしまっています。そこで採られる方法として,例えば,Q社の倉庫内に納入したP社製品を対象に集合動産譲渡担保を設定するとともに,Q社がP社製品を販売することで販売先に対して取得する代金債権につき,集合債権譲渡担保を設定する場合があります。
 このようなケースでは,集合債権譲渡担保契約を締結する段階では,まだ発生していない債権を譲渡担保に供するわけですから,その債権に譲渡禁止特約が付されるのかどうかは譲受人(P社)には知るよしもありません。そうすると,譲受人は譲渡禁止特約の存在について常に「善意」(民法466条2項但書)になるという考え方も成り立ちます。集合債権譲渡担保の活用による中小企業に対する与信の促進という意味では,このような考え方に一定の合理性があります。
 もっとも,そのような考え方に立つと,債務者側からすれば,自己の債務が(将来)債権譲渡されているかどうかという,自らの与り知らない事情により譲渡禁止特約の効力が否定されることになるため,「債権者を固定するという債務者の利益」を保護する譲渡禁止特約の趣旨が没却してしまうおそれがあります。

2 東京地判平成24年10月4日判時2180号63頁

 この点が問題になったのが東京地判平成24年10月4日判時2180号63頁(以下「本判決」といいます。)です。

 (1) 事案
 事案を簡略化すると,本判決は,A社(譲渡人)からA社のB社(債務者)に対する将来債権を譲り受けたY社(譲受人)に対して,同将来債権譲渡に遅れて同債権を滞納処分により差し押さえたX(国)が,同債権には譲渡禁止特約が付されていたためY社に対する将来債権譲渡は無効である旨主張して,Xが同債権の取立権を有することの確認を求めたものです。

 (2) 争点
 本判決では,「①将来債権の譲渡後に当該債権が発生し,譲渡禁止特約が付された場合,将来債権の譲受人は,譲渡禁止特約について善意であるとして,同特約の抗弁を受けない旨主張することができるか,②譲渡禁止特約の付された債権について差押えをした債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することが許されるかの2点」(判例時報2180号63頁に掲載された本判決の囲み記事)が争点となりました。本コラムで主に①の論点について触れます。

 (3) 判旨
 この点について,本判決は,以下のように述べて,将来債権の譲渡後に譲渡禁止特約が付された場合には民法466条2項但書の適用はなく,常に譲渡禁止特約が有効になる旨判示しました(なお,本判決は控訴されずに確定しています。)。

  「本件請負報酬債権には,譲渡禁止の特約が付されていた。そして,債権の譲渡禁止の特約についての善意(民法466条2項ただし書)とは,譲渡禁止の特約の存在を知らないことを意味し,その判断の基準時は,債権の譲渡を受けた時であるところ,本件請負報酬債権に譲渡禁止の特約を付する合意がされたのは,被告が本件請負報酬債権を譲り受ける契約を締結した後のことであるから,本件請負報酬債権の譲渡当時の被告の善意について論ずることは不可能であって,無意味というほかない。したがって,本件債権譲渡契約により被告が本件請負報酬債権を取得したとは認められない。」

 (4) 本判決について
 本判決によれば,集合債権譲渡担保を設定後に,その対象範囲に含まれる債権について譲渡禁止特約が付されれば,譲受人の善意・悪意を問わず,譲渡禁止特約が有効になってしまいます。
 一般的に,取引基本契約で譲渡禁止特約を定めるケースがよく見受けられます。例えば,先ほどの事例「メーカーP社,卸売業者Q社」の事例で考えると,Q社がP社製品を小売店R社に販売するようなケースが想定されますが,Q社・R社間で締結される取引基本契約の中に締結譲渡禁止特約が設けられる可能性は十分に考えられます。このような場合,本判決の考え方に立つと,常に譲渡禁止特約によって債権譲渡の効力を否定できることになります。
 もちろん,譲渡禁止特約は「債権者を固定するという債務者の利益」を保護するためのものですから,譲渡禁止特約に違反していていも,債権譲渡後に債務者が承諾すれば譲渡時に遡って当該債権譲渡は有効になります(最判昭和52年3月17日民集31巻2号308頁)。
 しかしながら,債務者が承諾する前に当該債権が他の債権者によって差し押さえられたり(最判平成9年6月5日民集51巻5号2053頁),善意の第三者に譲渡されてしまうと,民法116条の類推適用により,債務者は承諾による遡求効を差押債権者や善意の第三者に対抗することができないとされています。したがって,集合債権譲渡担保の担保権者(譲受人)にとって最も重要な局面である,譲渡人が破産したようなケースでは,本判決を前提にすると,譲渡担保権者(譲受人)は,譲渡禁止特約が付されている債権について,破産管財人に対して集合債権譲渡担保の効力を主張しえないという結論になりそうです(なお,本判決は,争点②につき譲渡禁止特約が付された将来債権を差し押さえた債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有する旨判示しているため,本判決を前提にすると,差押債権者に準じる破産管財人も譲渡の無効を主張する独自の利益を有するという結論になると思われます。最判平成21年3月27日民集63巻3号449頁も参照のこと。)。
 特に,民事再生手続の場合には,再生債務者が民事再生手続開始申立に先立ち,集合債権譲渡担保の対象債権の債務者に働きかけて譲渡禁止特約を付すようなケースも考えられないわけではありません(もっとも,このような悪質なケースでは別途否認権の行使等によって対応する余地があると思われます。)。これでは,集合債権譲渡担保の担保的価値が大きく損なわれてしまい,集合債権譲渡担保を活用した中小企業への信用供与という観点からは極めて大きな問題です。今後の議論が非常に注目されます。

3 民法(債権法)改正の中間試案
 現在,民法(債権関係)の改正が法務省の法制審議会―民法(債権関係)部会で審議されており,同部会の第71回会議(平成25年2月26日開催)で,「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」が決定されました(民法(債権関係)の改正に関する中間試案(概要付き)も参照。)。
 中間試案では,現行民法466条について下記の改正案が提案されています。規定の構造が若干わかりづらいですが,要するに,まず,中間試案では,債権譲渡の効力は生じるけれども債務の履行拒絶等を譲受人に対抗できるとするに留まる「譲渡制限特約」という考え方を導入しています(現行民法では,「譲渡禁止特約」には債権譲渡の効力が生じないという物権的効力があると考えられています。)。
 そのうえで,下記(4)ウ及びエにより,譲受人が第三者対抗要件を具備した後に譲渡人について倒産手続開始の決定があったり,当該債権が差し押さえられたりした場合には,譲受人に対して譲渡制限特約を対抗することができない旨定めることで,「譲渡禁止特約が債権譲渡による資金調達の支障となっている状況を改善」(民法(債権関係)の改正に関する中間試案(概要付き))する方向で改正が検討されています(上記最判平成9年6月5日民集51巻5号2053頁の考え方を立法により修正するものです。)。その提案の趣旨としては,譲渡禁止特約は,債権者を固定するという債務者の利益を保護するものですが,譲渡禁止特約付債権が差し押さえられたり,譲渡人につき法的倒産手続が開始した場合には,当該債権の取立権者等は,譲渡人から差押債権者又は管財人等に変更されるわけですから,もはや債権者を固定するという債務者の利益が失われている一方で,譲受人の保護を図る必要があるという指摘がされています(民法(債権関係)の改正に関する中間試案(概要付き))。
 これは集合債権譲渡担保の担保価値を高めるものであり,注目される改正案ですが,(注1)に記載されているように,この改正に反対する意見も強く主張されており,今後の動向が注目されます。

「1 債権の譲渡性とその制限(民法466条関係)
  民法466条の規律を以下のように改めるものとする。
 (1) 債権は,譲り渡すことができるものとする。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでないものとする。
 (2) 当事者が上記(1)に反する内容の特約(以下「譲渡制限特約」という。)をした場合であっても,債権の譲渡は,下記(3)の限度での制限があるほか,その効力を妨げられないものとする。
 (3) 譲渡制限特約のある債権が譲渡された場合において,譲受人に悪意又は重大な過失があるときは,債務者は,当該特約をもって譲受人に対抗することができるものとする。この場合において,当該特約は,次に掲げる効力を有するものとする。
 ア 債務者は,譲受人が権利行使要件(後記2(1)【甲案】ウ又は【乙案】イの通知をすることをいう。以下同じ。)を備えた後であっても,譲受人に対して債務の履行を拒むことができること。
 イ 債務者は,譲受人が権利行使要件を備えた後であっても,譲受人に対して債務の履行を拒むことができること。
 (4) 上記(3)に該当する場合であっても,次に掲げる事由が生じたときは,債務者は,譲渡制限特約をもって譲受人に対抗することができないものとする。この場合において,債務者は,当該特約を譲受人に対抗することができなくなった時まで(ウについては,当該特約を対抗することができなくなったことを債務者が知った時まで)に譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができるものとする。
 ア 債務者が譲渡人又は譲受人に対して,当該債権の譲渡を承諾したこと。
 イ 債務者が債務の履行について遅滞の責任を負う場合において,譲受人が債務者に対し,相当の期間を定めて譲渡人に履行すべき旨の催告をし,その期間内に履行がないこと。
 ウ 譲受人がその債権譲渡を第三者に対抗することができる要件を備えた場合において,譲渡人について破産手続開始,再生手続開始又は更生手続開始の決定があったこと。
 エ 譲受人がその債権譲渡を第三者に対抗することができる要件を備えた場合において,譲渡人の債権者が当該債権を差し押さえたこと。
 (5) 譲渡制限特約のある債権が差し押さえられたときは,債務者は,当該特約をもって差押債権者に対抗することができないものとする。
 (注1) 上記(4)ウ及びエについては,規定を設けないという考え方がある。
 (注2) 民法第466条の規律を維持するという考え方がある。」
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